法華経のあらましと要点

序品第一

(じょ)(ほん)()()(ない)(よう)

(じょ)(ほん)というのは、いとぐちの(しょう)という()()です。これからはじまる、ひじょうに(なが)(せっ)(ぽう)のいとぐちになる()(ぶん)です。だからといって、けっして(ない)(よう)()(はく)なのではありません。そこには、これから()かれるであろう(だい)(しん)()(あん)()があります。(ふく)(せん)()められています。
はじめて《(みょう)(ほう)(れん)()(きょう)》の(せっ)(ぽう)()(ひと)なら、その(あん)()(ふく)(せん)を、わけがわからぬままに()(なお)()けとり、ただつよい(いん)(しょう)(かん)じるだけでいいのですが、このお(きょう)をくりかえして(まな)び、ひとにも(つた)えようとする(ひと)は、その(あん)()(ふく)(せん)をハッキリとみとめ、それが()()するものをちゃんと()っておくことが(ひつ)(よう)です。ですから、いとぐちの(しょう)であるからといって、(かる)(かんが)えてはならないのであります。
さて、《()(りょう)()(きょう)》の(せっ)(ぽう)()えられたお(しゃ)()さまは、そのまま(ふか)(さん)(まい)におはいりになりました。()(さつ)たちをはじめ、(しゅっ)()(ざい)()(しゅ)(ぎょう)(しゃ)から、バラモンの(かみ)(がみ)(にん)(げん)()(がい)()(じん)までをふくむ()(しゅ)(いち)(どう)が、そのおすがたを(がっ)(しょう)のうちに(あお)()ていますと、とつぜんお(しゃ)()さまの()(けん)にある(びゃく)(ごう)(そう)(しろ)(うず)())からパッと(いち)(じょう)(ひかり)(はな)たれました。その(ひかり)は、()(きゅう)(じょう)のすみずみまではもちろんのこと、(そら)のかなたにあるさまざまな()(かい)から、()(そこ)()(けん)()(ごく)までをくまなく()らしだしました。
その()()()()()(ごと)に、(いち)(どう)はただ(きょう)(たん)するばかりでしたが、()(ろく)()(さつ)だけは、いったいどういうわけなのだろうか──と、しきりに()(くび)をかしげました。どうしてもわからないので、(だい)(せん)(ぱい)であり、()()のかたまりである(もん)(じゅ)()(さつ)(しつ)(もん)してみたのです。
すると(もん)(じゅ)()(さつ)は、はるかなむかしにおられた(にち)(がつ)(とう)(みょう)(ぶつ)という(ほとけ)さまの(はなし)をはじめました。その(ほとけ)さまのお()きになった(おし)えについても、(せつ)(めい)してきかせました。しかも、おどろくべきことには、その(ほとけ)さまがなくなられると、また(にち)(がつ)(とう)(みょう)(ぶつ)という(ほとけ)さまが(しゅつ)(げん)され、つぎつぎに二万もの(にち)(がつ)(とう)(みょう)(ぶつ)()られたというのです。
「その(さい)()(にち)(がつ)(とう)(みょう)(ぶつ)が、(ひと)びとのために〈()(りょう)()〉という(おし)えをお()きになってから(さん)(まい)におはいりになると、いまのお(しゃ)()さまとおなじように、()(けん)(びゃく)(ごう)(そう)から(だい)(こう)(みょう)(はな)たれ、()(すう)()(かい)がくまなく()らしだされた」……と、(もん)(じゅ)()(さつ)(はなし)はつづきます。そして、「その(さん)(まい)からたちあがられた(にち)(がつ)(とう)(みょう)(ぶつ)は、〈(みょう)(ほう)(れん)()〉というすばらしい(おし)えをお()きになり、その()(はん)(にゅう)(めつ)された」というのです。
「そういうむかしの(れい)によって(かんが)えれば、お(しゃ)()さまもこれからきっと、すべての(ひと)(すく)()(なか)をほんとうに(ただ)しく(うつく)しくする〈(みょう)(ほう)(れん)()〉の(おし)えをお()きになるにちがいない」と、(もん)(じゅ)()(さつ)(けつ)(ろん)づけて、この(ほん)()わりとなるのです。

()()(きょう)(けい)(しき)

このあらすじでもわかるように、《()()(きょう)》はひとつのドラマ((げき))のような(かたち)(こう)(せい)されており、そのなかには、ふつうでは(かんが)えられないような()()()()()(ごと)がつぎつぎに(てん)(かい)されてゆきます。それは、おそらく、お(しゃ)()さまのお()きになった(しん)(えん)(しん)()(みょう)(ほう))をそのまま(せつ)(めい)したのでは、(とう)()(いっ)(ぱん)(たい)(しゅう)はとうていついていけなかったために、(しょう)(ちょう)(てき)(しゅ)(ほう)と、ドラマという(した)しみやすい(けい)(しき)をとって(たい)(しゅう)(こころ)()(うご)かし、しだいしだいに(みょう)(ほう)(ちか)づけてゆこうと、このお(きょう)(へん)(しゅう)(しゃ)()()したのだろうと(すい)(そく)されます。まず、このことを()(かい)しておくことがたいせつです。

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