法華経のあらましと要点

この品(ほん)は、法(ほ)華(け)経(きょう)のこれまでの説(せっ)法(ぽう)に感(かん)激(げき)した人(ひと)びとが、「かならずこの教(おし)えを守(しゅ)護(ご)いたします」と、つよいことばで誓(せい)言(ごん)し、その守(しゅ)護(ご)のための神(じん)呪(しゅ)を説(と)いた章(しょう)で、全(ぜん)章(しょう)が梵(ぼん)語(ご)そのままの陀(だ)羅(ら)尼(に)（総(そう)持(じ)真(しん)言(ごん)＝あらゆる悪(あく)をとどめ、あらゆる善(ぜん)をすすめる力(ちから)をもつ秘(ひ)密(みつ)のことば）に満(み)ちています。
その陀(だ)羅(ら)尼(に)は、ほとんど神(かみ)々(がみ)の名(な)（もしくはその異(い)称(しょう)）の列(れっ)挙(きょ)であり、その神(かみ)々(がみ)への呼(よ)びかけであるといいますから、つまりは〈神(かみ)々(がみ)への感(かん)応(のう)を求(もと)める〉ということになりましょう。

五(ご)種(しゅ)不(ふ)翻(ほん)

この品(ほん)には、梵(ぼん)語(ご)そのままのことばがいくつもでてきます。なぜ中(ちゅう)国(ごく)語(ご)に翻(ほん)訳(やく)しなかったかというと、鳩(く)摩(ま)羅(ら)什(じゅう)をはじめ、仏(ぶっ)教(きょう)経(きょう)典(でん)を中(ちゅう)国(ごく)語(ご)に翻(ほん)訳(やく)した人(ひと)たちは、どうしても翻(ほん)訳(やく)しないほうがよいと判(はん)断(だん)したものは、原(げん)語(ご)の音(おん)に似(に)た漢(かん)字(じ)をあててすませ、わざと原(げん)語(ご)のまま残(のこ)しておいたのです。それを〈五(ご)種(しゅ)不(ふ)翻(ほん)〉といいます。
一、インドの固(こ)有(ゆう)の動(どう)植(しょく)物(ぶつ)や、伝(でん)説(せつ)上(じょう)のものの名(な)。
二、一つの語(ご)におおくのことがふくまれているので、一(いち)語(ご)に翻(ほん)訳(やく)すると原(げん)意(い)が十(じゅう)分(ぶん)に尽(つ)くされないもの。
三、神(しん)秘(ぴ)的(てき)なこと。いわゆる秘(ひ)密(みつ)の語(ご)でこれを翻(ほん)訳(やく)すれば、その奥(おく)深(ぶか)い神(しん)秘(ぴ)的(てき)な意(い)味(み)が減(げん)殺(さい)されてしまうもの。
四、むかしからの習(しゅう)慣(かん)にしたがって、原(げん)語(ご)のままにしておいたもの。
五、翻(ほん)訳(やく)すれば、真(しん)の意(い)味(み)を失(うしな)ってしまうもの。
以(い)上(じょう)の五種(しゅ)類(るい)の場(ば)合(あい)があります。