仏教とはどのような教えか

八正道


正とは

人間は、ほんとうに真理に合った正しい生き方をしさえすれば、客観的には苦のなかにあっても、それを苦と感じなくなります。天災地変にあっても動ぜず、「病もまた楽し」という心境になり、最大の恐怖であるべき死さえも「帰るべきところへ帰るのだ」という淡々とした気持で迎えることができるようになります。そのような正しい生き方を八つに分けて教えられたのが、〈(はっ)(しょう)(どう)〉すなわち〈(しょう)(けん)(しょう)()(しょう)()正行(しょうぎょう)正命(しょうみょう)正精(しょうしょう)(じん)(しょう)(ねん)正定(しょうじょう)〉ということであります。
そのすべてに〈正〉という字がついていますので、まずその意味からはっきりさせておく必要があります。

真理に合った

この〈正しい〉というのは、つまり〈真理に合った〉という意味です。

調和のとれた

また、真理に合ったものの見方や、考え方や、行動のしかたは、必ず調和のとれたものです。ですから、正しいということには、〈調和のとれた〉という意味もあります。

目的に合った

また、真理に合ったものの見方、考え方、行動のしかたは、当然、必ず目的にぴったり合っています。ですから、正しいということばには、〈目的に合った〉という意味もあるのです。
その、八つの正しい道(八つの聖なる道ともいう)というのは、次のような人生の基本指針なのであります。

正しく生きる八つの道

正見

〈正見〉というのは、自己中心の(ゆが)んだ見方をせず、一方に片寄った見方をせず、正しくものを見なさいという教えです。

正思

〈正思〉というのは、ものの考え方を自分本位に片寄らせることなく、常に大きい立場から、真理に照らし合わせて考えなさいということです。

正語

〈正語〉とは、正しいことを言いなさいというのです。真理に合ったことを、目的にぴったり合った表現で言うのが、正しいものの言い方です。そして、どのような意味でも、社会全体に調和する言論が正語なのであります。

正行

〈正行〉というのは、日常の行為は正しいものでなければならないという教えです。正しい行ないとは、天地の真理に合った、それをなそうとする目的に合った、そして周囲や社会と大きな意味で調和のとれたものをいうのです。

正命

〈正命〉とは、衣食住その他の生活財は正しく求めなさいということです。われわれ在家のものにたいしては、ひとの迷惑になるような仕事や、世の中のためにならぬ職業などによって生活の(かて)を得るのでなく、正しい仕事や、ひとのためになる職業による、正しい収入で暮らしを立てなさいと教えられているわけです。

正精進

〈正精進〉とは、自分に与えられた正しい使命および自分が目ざす正しい目的にたいして、正しく励み進んで、怠ったり、わき道へそれたりしないことをいいます。使命や目的が正しくあるべきことはもちろんですが、その実践方法も、真理に合った、目的に合った、調和のとれたものでなければなりません。そういう努力を、正精進というのです。

正念

〈正念〉とは、仏と同じような正しい心を持ち、その心を常に(・・)強く(・・)正しい(・・・)方向(・・)へ向けていなさいという教えです。仏と同じような正しい心や正しい方向とは、どんなことを指すかといいますと、(しょう)()にとらわれたわがままな分別を捨てて、ものごとの実相を見ることにほかなりません。つまりは、常に真理を見、真理を強く思うということに帰します。

正定

〈正定〉とは、心をいつも正しくおいて、周囲の影響や環境の変化によって動揺することがないようにしなさいということです。真理をしっかりつかみ、すべてをその真理に照らし合わせて考え、行動するかぎり、確固たる自信が持てます。ですから、どんなことがあっても心がぐらぐらすることがありません。その状態を、〈(じょう)〉もしくは正定というのです。
この八正道は、()(たい)の第四である道諦(どうたい)を具体的に教えられたもので、仏教の教えのなかでもたいせつな法門です。いわゆる深遠な哲理などというものでなく、われわれの生活に密着した、ふだんの生き方の指針ですから、ぜひ深く心に刻んでいたいものです。
なお、がんこで狭量な法華経信奉者のなかには、「八正道は法華経のなかには説かれていないから、学ぶ必要はない」などという人がありますが、全くの浅見であることはもちろん、《法華経》そのものをも、よく読んでいないのです。
前の四諦の章の最後に掲げた《譬諭品》の()に〈滅諦(めったい)(ため)(ゆえ)に (どう)(しゅ)(ぎょう)す〉とあります。ここのところは四字一句の詩になっているため〈八正道〉というのを略して〈道〉といってあるだけのことです。つまり、《法華経》においても、八正道にはちゃんと触れているのです。

真理を負う者は最も強い

ともあれ、この教えの全体を貫く精神は、〈真理を負う者は最も強い〉ということです。真理に合った生き方さえすれば、苦も苦ではなく、人生を正しく、強く、明るく生きることができる、という教えであります。

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