法華経の成立と伝弘
はじめに
仏教の教えは、たいへんむずかしいもののように思われています。
その大きな原因のひとつは、仏教の経典がいかにもとっつきにくい外見をしているからだと思います。それも無理はありません。二千年近くも前に、インドのことばで書かれたものが、むかしの中国のことばである漢文に訳され、それがそのまま日本に伝わって現代におよんでいるからです。
仏教の経典のうちで最もすぐれたものが「妙法蓮華経(法華経)」であることは、もはや動かすことのできない定説になっていますが、いまわたしどもの手もとにあるかなまじりのものでも、むずかしい漢字が多く、たいへんいかめしい感じです。その解説書にしても、おおむね原典そのままのわけを書いてあるにすぎません。そして「法華経」には、幻の世界のような場面があったり、おとぎ話のような物語があったり、かと思うと非常に含みの多い哲学的なことばが出てきたりして、なんだか現実の生活から離れた、不思議な、神秘的な教えのような気がします。それで、たいていの人が「とても『法華経』は深遠でわからない」とさじを投げたり、「いまの世には通用しない夢のようなものだ」と、あたまから問題にしなかったりするのです。