法華経の成立と伝弘
一仏乗の教え
そのとき、「いや、仏の教えに大乗も小乗もない。ただ一乗しかないのだ。みんな仲間どうしのけんかはやめて、この一乗に従おうではないか。釈尊が『これこそ、いちばんすぐれたものだ』といってお説きになった最高の教え、真実の教えは、この法門だったのだよ」といって書きあらわされたのが、ほかならぬ「法華経」だったのです。
それは仏滅後七百年ぐらいたった頃のことだといわれていますが、わたしは、その七百年間における仏教の移り変わりが、現在にいたる二千数百年の移り変わりとそっくりの、いわばひな型のようなものだということに、大きな意味を感じるのです。仏教が形だけの、そして現在生きている人間を救う力のない仏教になってしまった二十世紀に、ほんとうの釈尊の教えにかえろうという運動が、在家の帰依者のあいだから起こり、在家の人びとを中心として日本じゅうにひろがろうとしている事実は、まことにおろそかに考えてはならぬ深い深い仏意によるものだと信じます。