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2001年07月09日 立正佼成会が、小泉首相にあて意見書提出 靖国神社参拝に慎重な対応申し入れる

小泉首相が8月15日の終戦記念日に靖国神社に参拝するとの発言を繰り返していることに対し、新宗連(新日本宗教団体連合会)の深田充啓理事長(円応教教主)と立正佼成会の酒井教雄理事長が9日午後、首相官邸を訪ね、小泉首相にあてた意見書を、それぞれ福田康夫官房長官に手渡しました。深田理事長名で提出された新宗連の意見書は、靖国神社への公式参拝が「政教分離」の原則に反し「信教の自由」をも圧迫するものとして、十分な配慮を要請。一方、立正佼成会は、新宗連の意見書を加盟教団として全面的に支持する意向を示すと共に、本会独自の立場から小泉首相の靖国神社参拝に反対する意見書を酒井理事長名で提出しました。これまで新宗連理事長として庭野日敬開祖名の意見書が提出されたことはありましたが、首相に対して本会が独自の意見書を提出するのは、今回が初めてのことになります。

小泉首相は、就任以来、衆参両院の本会議や予算委員会などの場で、8月15日の終戦記念日に靖国神社に参拝する意向を表明しています。これに対し、宗教界からは、現職首相が靖国神社に参拝することは、憲法の定める「政教分離」「信教の自由」の原則を踏み外すとの批判が相次いでいます。
これまで新宗連は、首相の公式参拝、また1960年代に提出された靖国神社国家護持法案に一貫して反対し、歴代首相への意見書提出、立法化阻止の反対署名運動などを重ねてきました。1980年には、立正佼成会の庭野日敬開祖(当時・新宗連理事長)が鈴木善幸首相(当時)と会見し、靖国問題への慎重な対応を求めています。
また立正佼成会も、新宗連の加盟教団として基軸を合わせながら活動を展開。1974年、東京で「靖国法案反対青年集会」を実施し、青年部員を中心にしたデモ行進を行ったほか、1980年には「靖国問題対策本部」を設置し、同問題に長期的に取り組んでいく姿勢を示しました。閣僚が公人として靖国神社に参拝することについても、本会推薦議員の閣僚に意見書を送付するなど、「信教の自由」「政教分離」を堅持する姿勢を貫いています。
今回提出された新宗連の意見書では、「平和主義」の精神や「信教の自由・政教分離」の原則が、『先の戦争に対する深い悲しみと反省から二度とふたたび戦争を起こさないという絶対非戦の誓い、あるいは信仰の自由の制限や宗教弾圧に対する厳しい反省に基づいている』と指摘。『「靖国神社への公式参拝」は憲法20条の「政教分離」の原則に反し、ひいては「信教の自由」を圧迫するもの』とし、首相に十分な配慮を求めました。
一方、本会の意見書は、冒頭、新宗連が提出した意見書を加盟教団として全面的に支持する意向を表明。同時に、本会独自の意見として、「信教の自由」「政教分離」を守り抜く決意、慰霊と平和への祈り、菩薩行としての平和実践、政治への基本姿勢などに触れながら、『庭野開祖は新宗連理事長として広く宗教界に呼びかけ、「宗教法人靖国神社は、その宗教性や歴史的な経緯にかんがみて、国家護持ではなく国民護持にすべきである」と訴えたのであります。こうした庭野開祖の訴えは、国民や宗教界の大方の理解と支持を得られました。総理の「靖国神社参拝」が、人々の幸福と平和のための宗教協力の潮流をおしとどめ、宗教対立を招くことになると、本会は深く憂慮するものであります』と、「国民護持」の潮流を尊重するよう要請しています。
その上で、『公人中の公人たる総理大臣が、きわめて違憲性の高い「靖国神社参拝」を行うことは、厳に慎むべきであり、本会としては断じて認めることはできません』と強く申し入れました。
9日、首相官邸には、深田・新宗連理事長、酒井・立正佼成会理事長が訪れ、福田官房長官と会見。新宗連から天谷忠央事務局長、本会から古山幾央・佼成平和研究所所長、前佼成平和研究所所長の山田匡男・多摩教区長が同席しました。
冒頭、深田理事長が新宗連の意見書を、酒井理事長が本会の意見書をそれぞれ福田官房長官に提出。酒井理事長は会見の中で、「戦前、戦中、宗教統制が行われ、私どもの教団の開祖をはじめ幹部が、つらい経験をしたことがあります。その意味で、『信教の自由』『政教分離』の原則が破られることには、敏感にならざるを得ません」と述べました。
福田官房長官は、「小泉総理も私も、宗教ということで靖国に行っているわけではないのです。戦死された方に敬意を表すという極めて単純な発想で、今までお参りしてきました。無名戦死の遺骨がおさめられている千鳥ケ淵に行くのも、靖国に行くのもまったく同じ気持ちだと思います」と説明した。
これに対し酒井理事長は、「私どもの教団も、戦争の犠牲になった方々に対しては、新宗連の開催する千鳥ケ淵での式典をはじめ、8月15日に本部・全国の教会で真心から慰霊の誠を捧げさせて頂いています。戦没者に敬意と感謝の心を捧げるという気持ちは、私どもも同様であり、よく理解できます。しかし、靖国神社は、現に宗教法人として、神社の伝統的なあり方に基づき、日頃も宗教的な儀礼をもってお祀りごとをされています。そこに総理が公人として参拝されることは、『政教分離』の原則を踏み外すことにもなります。その点を、ぜひお考え頂きたい」と訴えた。
福田官房長官は、「お話の趣旨を、よく総理に伝えます」と応えた。

本会「靖国神社参拝」に対する意見書 全文

平成13年7月9日

内閣総理大臣
小泉純一郎 殿

立正佼成会 理事長
酒井教雄

「靖国神社参拝」に対する意見書

立正佼成会(以下「本会」と申します。)は、現内閣発足以来の小泉総理の「改革」に向けた果敢な取り組みに対し、深く敬意を表するものであります。その改革の姿勢に対しては、国民の多くが期待を寄せており、総理の言動は、国民と社会に極めて大きな影響を及ぼしております。
さて、そうした中で、総理は、8月15日の終戦記念日に靖国神社に参拝する意向を繰り返し発言しておられます。総理のこの発言は、一丸となって「痛み」を共にして構造改革に取り組もうとする国民のあいだに、また平和と友好を求めるアジア諸国の人々とのあいだに、深い疑念と感情の相克を呼び起こしております。
その意味から、本会は、平成13年7月9日に新日本宗教団体連合会(「新宗連」)が提出した「靖国神社参拝発言に対する意見書」を加盟教団として全面的に支持するとともに、小泉総理に対し、本会独自の立場から意見を申し上げたいと存じます。
戦前・戦中を通して、本会は、軍国主義国家体制の下で厳しい宗教統制を受け、本会創立者である庭野日敬開祖をはじめ、多くの幹部・会員が信教の自由の侵害を再三にわたって経験し、また多くの会員が戦争のため尊い生命を捧げました。この体験から、本会は、「信教の自由」と「政教分離」を絶対に守り抜く決意をするとともに、戦争に対する深い反省をこめて、全戦争犠牲者の霊をお祀りし、「二度と戦争を起こさない、起こさせない」という誓いを立て、慰霊と平和への祈りを捧げてまいりました。
こうした立場は、ほとんどの宗教団体に共通したものであり、各宗教団体はそれぞれの様式で戦没者への慰霊供養や平和祈願を行っているのであります。加えて、本会は、法華経に説かれる「世のため人のために尽くす」という菩薩行の実践を旨とし、「真の仏教者は、心の平安や死後の安楽・成仏を願うだけでなく、現実社会の平和を目指すものである」との庭野開祖の教えに従い、全会員がその実践に取り組んでまいりました。
とくに政治とのかかわりについては、「政教分離」の原則を堅持し、(1)政党はつくらない (2)一党一派に偏しない (3)立派な政治家を支援する (4)政治に対する監視を怠らず、「信教の自由」が侵害されるおそれがあるときは断固行動する、との立場を貫いてきました。
ところで、本会は、自由民主党とその歴代の内閣が自由と民主主義を守り、バランスの取れた政治運営をしてきたことを高く評価してまいりました。しかしながら、この度の小泉総理の「靖国神社参拝」の意向表明は、信教の自由や良心の自由を侵し、かつ政教分離の原則を踏み外しかねないものであり、まことに遺憾であります。総理におかれては「靖国神社参拝」をご再考いただきますよう強く要望いたします。そして、このことは、本会のみならず、多くの宗教団体とそこに属する信仰者の願いでもあろうと存じます。
また本会は、宗教界において常に宗教協力による相互の対話と協調に努めてまいりました。かつて「靖国神社国家護持問題」や「靖国神社公式参拝問題」が起きたとき、庭野開祖は新宗連理事長として広く宗教界に呼びかけ、「宗教法人靖国神社は、その宗教性や歴史的な経緯にかんがみて、国家護持ではなく、国民護持とすべきである」と強く訴えたのであります。こうした庭野開祖の訴えは、国民や宗教界の大方の理解と支持を得られました。総理の「靖国神社参拝」が、人々の幸福と平和のための宗教協力の潮流をおしとどめ、宗教対立を招くことになると、本会は深く憂慮するものであります。
申すまでもなく、靖国神社は、神道の宗教的伝統に基づく神社であり、今日、主権者である国民の多くの人々により、それぞれの心情あるいは宗教的信条にもとづいて、実際に崇敬され、護持されております。その意味におきまして、戦没者や多くの遺族をはじめ、心ある国民の戦没者への慰霊と平和への切なる思いに反して、「靖国神社公式参拝問題」が常に政争の具となることに、本会は大変危惧するものであります。こうした観点からも、公人中の公人たる総理大臣が、極めて違憲性の高い「靖国神社参拝」を行うことは、厳に慎むべきであり、本会としては断じて認めることはできません。
重ねて小泉総理の賢明なご再考をいただきたく、ここにあえて本会の意見を申し上げた次第であります。

以上

新宗連「靖国神社参拝発言」に対する意見書 全文

平成13年7月9日

内閣総理大臣
小泉純一郎 殿

新日本宗教団体連合会理事長
深田 充啓

「靖国神社参拝発言」に対する意見書

盛夏の候、小泉総理におかれましてはますますご清祥の趣、大慶至極に存じます。
内閣総理大臣にご就任以来、きわめて多くの国民の支持を得られるなか、日本国民のために山積する政治課題に対して「聖域なき改革断行」を標榜され、果敢に取り組んでおられます姿勢に、心から敬意を表するものであります。
新日本宗教団体連合会(新宗連)は昭和26年の結成以来今日まで、「宗教協力」による人類の福祉と世界平和に貢献することを目的として活動を展開しております。その新宗連の活動を支えている理念は、日本国憲法に謳われた「基本的人権」と「平和主義」の精神であり、とりわけ「信教の自由」とこれを保障するための「政教分離」の原則であります。
この「平和主義」の精神や「信教の自由・政教分離」の原則が、先の戦争に対する深い悲しみと反省から二度とふたたび戦争を起こさないという絶対非戦の誓い、さらには信仰の自由の制限や宗教弾圧に対する厳しい反省に基づいていることは、総理も十分ご承知のことでありましょう。この憲法原則は、戦後ながきにわたって政権を担い、わが国を復興から繁栄に導いてきた自由民主党に支えられた、歴代の内閣が尊重されてきたものであり、このことは小泉内閣におきましてもいささかも変更されることはないと、私どもは信じて疑いません。
ところで、総理はご就任後さまざまの場で、8月15日の終戦記念日に靖国神社に参拝する旨発言されておられますが、「靖国神社への公式参拝」は憲法20条の「政教分離」の原則に反し、ひいては「信教の自由」を圧迫するものと、私どもでは歴代総理に意見を申し上げてまいりました。総理におかれまして十分にご配慮いただきたいとお願い申し上げます。
また、当方では戦没者への国家としての追悼のあり方について、国立墓苑等の施設の問題をはじめ、国民的合意を形成すべきであると考えます。こうした議論のためへの協力を惜しまないつもりでありますことを申し添えさせていただきたいと存じます。

(2001.07.09 記載)