『アジアの和解と協力』をメーンテーマにインドネシアのジョグジャカルタで6月24日から開催されていたACRP6(第6回アジア宗教者平和会議)が同28日、大会を総括する「ジョグジャカルタ宣言」を採択して閉幕しました。昨年の米国テロ事件以後初めての大会となる今回は、テロに対する宗教者の姿勢が大きな焦点になったほか、インド、パキスタン両国間の緊張など現在アジアで懸念される諸課題について討議されました。21の国と地域、14宗教から参加した約500人の宗教者(正式代表、オブザーバー、友愛代表、ゲストなど)は、国や人種、宗教の違いを超えて平和に向けた宗教者の進むべき道を模索しました。大会には、立正佼成会から正式代表3人を含む約50人の会員が参加。庭野日鑛会長もACRP会長として全体会議の議長を務めたほか、会議の合間には各国の宗教者と親交を深めました。
<大会の焦点>
昨年9月に米国で発生した同時多発テロは、世界中の人々を震かんさせ、テロ行為に対する憤りを強く人々の心に植え付けました。当初、昨年11月に予定されていたACRP6もこのテロの影響で延期を余儀なくされていました。当然、大会ではテロに対する宗教者の姿勢が大きな論点となりました。
特に、『平和的共生のための和解―軍縮と安全保障』をテーマに掲げた研究部会Iでは、冒頭からこの問題が討議されました。この中で、宗教者はいかなるテロ行為も絶対に容認しないことを確認すると共に、テロに対する報復攻撃や一切の暴力にも反対する態度を明確にしました。同時に、テロリストだけを一方的に非難するのでなく、テロを引き起こす原因とされる経済格差や人権抑圧、搾取、社会不正義の問題などにも目を向け、宗教者として何よりも人間の尊厳性を訴えていくことが重要であるとされました。
また、緊張状態の続くインド・パキスタン問題については、両国間のさまざまな歴史を認識する必要性が指摘されると同時に、両国が核保有国であることから、核兵器の問題との関連で議論されました。その結果、核による被害の甚大さを認識させるための教育や両国政府に対する平和的解決のはたらきかけが不可欠とされたほか、両国宗教者による相互交流委員会の設置が提案されました。
<研究部会>
このほかの研究部会でもそれぞれの「和解」について活発に議論されました。
研究部会2では、『公正な持続的開発のための和解』をテーマに、経済開発のためアジアで急速に進む自然破壊について討議され、富める国と貧しい国の協力を前提に、全体的な経済システムの構築や環境政策の実施、分かち合いや共生のための新しいライフスタイルの確立などが急務とされました。
研究部会3では、『いのちを尊ぶ共同体のための和解―人間の尊厳と人権』をテーマに、差別や人権侵害の実態が報告され、人間の尊厳を回復するための宗教者による積極的な役割が求められました。また、ACRP人権センターの設置が提案されました。
『調和ある家庭のための和解―女性、子ども、男女協力』をテーマにした研究部会6では、家庭内で女性や子供、老人が冷遇される傾向にあると指摘され、価値教育による健全な価値観の形成や、差別の根拠となり得るような聖典・経典の内容の再解釈が必要とされました。
研究部会5では、『平和の文化を育てる和解―平和のための教育と奉仕』のテーマのもと、平和に向けた各宗教の教育や具体的実践方法について報告されました。一方で、世界平和に貢献するための宗教が、現実には分裂の原因になる危険性も指摘されました。
<大会宣言・特別行動計画>
最終日の全体会議6では、大会の討議内容をまとめた「ジョグジャカルタ宣言」が満場一致で採択されました。
宣言文では、テロはいかなる理由があろうとも許されないと明記すると同時に、宗教者は貧しき者、抑圧された者、権利を奪われた者の側に立ち、人間の尊厳を中心に開発を続けていくと誓いました。
また、多様なアジアでは、霊性が調和を求める基盤であり、宗教者は霊性によって悲惨さや憎しみのなかで仕事をしていくことができると指摘しました。
その上で、具体的な提案として、
1.アジアの相互理解を深めるための比較宗教・文化センターの設立
2.青年交流プログラムの開始
3.人権、特に生活権の確保と促進
4.女性や子供に影響を及ぼす差別と抑圧に関する情報への対処
5.差別された人々や少数民族の問題の研究
6.紛争地域における和解の担い手となること
7.欧米の宗教者とテロや核拡散などに関する対話や協議
以上の7項目を掲げ、「行動する宗教」を標榜するACRPの特徴を表した内容となりました。
また、今後の具体的な活動内容をまとめた特別行動計画も採択されました。これは、ACRPインドネシア委員会の主催により2002年8月から2007年8月までの5年計画で実施されるもので、プルーラリズム(複合文化主義)に関する(1)調査(2)トレーニング(3)セミナー、などの3項目が盛り込まれています。
<ACRP新執行部体制決まる>
会議4日目の全体会議5で、正式代表の投票により、ACRPの新会長(5人制)および新事務総長が選出されました。この結果、庭野会長がACRP会長に再任されたほか、6年間にわたり事務総長を務めた飯坂良明・聖学院大学学長の後任に、韓国の金星呻・国立中央青少年修練院院長が選出されました。
閉会式後に開かれた新管理委員会では、ミル・ナワズ・カーン・マルワット会長(パキスタン)が実務議長に再任されました。
ACRP6 ジョグジャカルタ宣言(仮訳、要旨)
<前文>
第6回アジア宗教者平和会議(ACRP6)は、インドネシアの古都・ジョグジャカルタで、『アジアの和解と協力』をテーマに開催された。アジアの主要宗教、バハイ教、仏教、キリスト教、儒教、ヒンズー教、ユダヤ教、イスラム、神道、シーク教、道教、ゾロアスター教などの宗教者合わせて500人が、21の国と地域から集った。
残念なことに、大会は昨年9月11日のテロ攻撃のために延期を余儀なくされた。我々は、ありとあらゆる種類のテロを、いかなる理由があれ、絶対に許すものではない。
我々の間には相互理解と他の宗教に対する尊敬が醸成されている。そして、アジアと世界における平和と調和の基盤となる相互理解と尊敬を伸展させるために選んだ歩みをさらに進めようと、今、決意した。この分極化と不調和の時代において、対話を促し、平和と調和、安全、平和的共存を約束する多様性に対する真の尊敬を支持し、確立し、さらに希望と和解の新たな時代を創造していくことが我々の課題である。
<アジアの現実>
アジアでは、悪循環は差別、不平等、剥奪、暴力という形をとって現われる。これらの要因は複雑に絡み合い、至るところで堪えがたい社会状況をつくり出している。それぞれの要因は、相互に関連する他の問題を論じることなく、取り組むことはできない。
<アジアの霊性>
アジアは世界の偉大な宗教の揺りかごである。人間に高度な性質を吹き込む霊性が、アジアには満ちている。宗教により表現のし方は異なっていても、霊性は、我々を一つに調和させる力である。
我々が共通の祈りや証しにより、復興させようとしている霊性は、弱者に力を与え、絶望の中の希望となり、憎しみの中に愛をもたらす。
以上のような観点から、今大会のテーマ『アジアの和解と協力』は、ACRPに適切で重要なポイントを新たに付加したものと言える。
研究部会では、人権侵害や人間の尊厳の否定、資本主義あるいは社会主義から生じた経済問題、女性・子供の虐待、権力を有する支配層の利益に偏った変則的な教育制度などの問題を解消していくことが提言された。
教育の推進、環境保護、「自然資本」の開発、市民社会ネットワークの国際化なども提案された。
また、平和教育、一般教育を促進していくことの必要性・重要性が強調され、宗教指導者に対しても、平和の大切さを心に刻み、暴力やテロリズム、戦争に反対する教育を施すことが提案された。
<平和の文化を育てる教育>
宗教者として、我々は、寺院や教会、モスク、シナゴーク、そして家庭における教育を通して、それぞれの宗教伝統の中で平和を建設する基盤を強調し、社会における認識を高揚させることを誓う。行動する宗教者として、我々は、個人の生活と平和の建設者として我々のより広い活動における日々の選択を慎重に結びつけていかなければならない。
我々は、宗教施設で、学校、大学で、平和教育のための新たな取り組みを応援する。我々は公共生活、共同体の中で、軍拡競争の現実、地域紛争が戦争に発展するということを理解し、議論し合わなければならない。そして、武力によらない紛争の平和的な解決のための手段や戦術、国連や関係機関の役割についても、理解し、語り合わなければならない。
平和教育の本質は、共同体や国家、世界に共に暮らす人々の異なった宗教、イデオロギー、文化を学び、理解することである。
<マスメディア>
コミュニケーション技術の急激な発達に伴い、マスメディアは、知識や情報を広めていく上で有用な、強力な道具となってきた。同時に、マスメディアは道徳の退廃につながる有害な道具にもなり得る。マスメディアを人道にかなうように活用するため、宗教の責任において、倫理基準を与えなければならない。現代社会において、マスメディアは多数の人々を、またグループとグループ、国と国を結びつけることができ、そのため、より容易に、密接に人類の共通の運命と連帯意識が形成されているのである。
研究部会、女性部会、青年グループからの提言や会議に参加した宗教指導者たちからの意見に鑑み、紛争の結果から生じた暴力、緊張、テロリズム、戦争といった問題を含む、多くの問題に対処するために、適切な措置を講ずる必要性が指摘されている。
問題解決に向けた取り組みとして、以下のような提案がなされた。
1.「アジア宗教・文化比較研究センター」を設立し、アジアの人々の相互理解を促進する。
2.青年交流計画に着手する。
3.人権問題、特に生計手段、開発に対する人々の権利に高い関心を示し、人権擁護に向けた研究に着手する。
4.女性と子供に影響を及ぼす情報を収集し、多くの国に存在する差別や抑圧といった問題に取り組み、女性と子供の権利を守る。
5.アジア各国に存在する差別された人々、人種的少数派にかかわる諸問題を研究する。
6.ACRPを和解と親善のための道具とし、インド・パキスタン紛争、スリランカ、ネパールでのテロリズムと民族紛争の拡大、朝鮮半島の南北分断といった重要な問題において、緊張を和らげ、問題解決に役立てていく。
7.ACRPとして、アメリカの宗教指導者やヨーロッパ宗教者平和会議(ECRP)の代表との協議・対話の場を設け、昨年9月11日の米国同時多発テロ、核拡散、政府による暴力・武力の使用等の問題に関して意見を交換し合う。
我々は謙虚な気持ちで、人類同胞のために、我々がより価値のある、有益な存在であるよう、神仏から力を授けられることを願う。
どうか我々の平和の願いと祈りが現実のものとなり、この場で示された一致の精神と献身が、さらに深まってまいりますように。
ACRP6 解説
多くの人種、文化、宗教が混在するジョグジャカルタでACRP6が開催されたことは、「多様性の中の調和」を目指すACRPの目的に沿ったものだった。
大会では、テロに対する宗教者の姿勢が焦点となった。昨年の米国テロ事件以降、各宗教者たちはそれぞれテロ反対の声を上げ、行動を起こしてきた。この大会で宗教者があらためてテロ反対を強調したのは、一部の宗教過激組織によるテロ活動が注目される中で、宗教自体は明確にテロを否定している事実をアピールする意味があっただろう。
さらに、参加者はテロを一方的に非難するだけでなく、経済格差や差別、抑圧といった、テロを生み出すさまざまな要因にも目を向け、問題の真の原因に迫る努力をした。人間の尊厳性を見つめる宗教者として、社会的弱者の立場も尊重しながら平和への道筋を模索したのは大切な視点であった。貧困や差別、抑圧、暴力がいたる所で見られるアジアでは、一層、宗教者の役割が求められる。
今大会はまた、イスラム圏で初めて行われた大会でもあった。これは、ACRPの組織の広がりや宗教者間の新たな交流という点で大きな意味を持つものであった。インドネシアにとっても、2年前に設立したばかりの国内委員会の組織基盤を固める機会となった。
今回、新たにカンボジア、ラオス、東ティモールからも宗教者代者が参加。今後、アジア全体を視野に入れたACRPの活動を考えたとき、新たな宗教者の仲間入りは大きな希望となった。
行動を通して道を切り拓いてきたACRP。「平和の繁栄」を意味するジョグジャカルタから、平和に向けた新たな一歩が始まることを期待したい。
(2002.07.03記載)