庭野平和財団(庭野日鑛総裁、庭野欽司郎理事長)の「第21回庭野平和賞」贈呈式が5月11日、東京・丸の内の東京国際フォーラムで行われました。今回の受賞者(団体)は、内戦の続くアフリカ・ウガンダで非暴力による紛争解決に取り組む「アチョリ宗教者平和創設委員会」(ARLPI)。アフリカ大陸からは初の受賞となります。ARLPIはムスリムとキリスト教徒による諸宗教協働組織。対立する政府軍と反政府軍の仲裁役を務めるほか、平和を創設する人材育成、紛争被害者の救済活動を進めてきました。贈呈式では、ジェームス・ボリバ・ババ駐日ウガンダ大使はじめ識者、各宗教の代表者ら200人が見守る中、庭野総裁からARLPIのジョン・バプティスト・オダマ会長(カトリック大司教)ら4人のメンバーに賞状と副賞の顕彰メダル、賞金2000万円(目録)が贈られました。
同財団は昨年5月、庭野平和賞が20回を迎えた記念事業として10人の宗教者で構成される「庭野平和賞委員会」(グナール・スタルセット委員長=ノルウェー国教会主教)を設立。今回の「第21回庭野平和賞」を受けたARLPIは、同委員会によって選考された初めての受賞団体です。
ARLPIは1998年、イスラームやキリスト教(カトリック、聖公会、正教会)の宗教者によって発足。現在、13人の宗教指導者、14人のスタッフ、400人以上のボランティアが活動に携わっています。
ウガンダでは英国の植民地時代から前政権まで、アチョリ人ら北部民族出身者が兵士や警官に多く登用され、軍の中核を担いました。一方、現政府軍は南部の民族が主力。86年に現政権が誕生して以降、同国北部では政府軍と歴代政権の軍の残党を中心とした反政府軍との間でゲリラ戦が激化しました。
特に、「神の抵抗軍」(LRA)と呼ばれる反政府軍は内戦の中で、社会基盤の破壊、殺害、暴行、略奪など一般住民への人権侵害を繰り返してきました。少年兵の登用や性的搾取をねらって誘拐された児童、若者の数は2万人に及びます。18年間の内戦で120万人以上の国内避難民が発生しました。
こうした中、ARLPIは政府とLRA間の対話を促進させるため、仲裁役となり、命がけで和平交渉にあたっています。また、暴力に対して、反対の意向を表明していこうと、毎年、虐殺のあった場所で「祈りの集い」を主催。多くの市民と共に戦闘の中止、対話の実現を訴えてきました。
このほか、被害を受けた地域に「平和委員会」を設立し、平和構築への人材育成、人権啓発、被害者への心のケアなどの活動を行うと共に、「教育プログラム」を導入し、紛争の被害を受けた子供たちへの保護と支援活動を行っています。和平実現のために、諸宗教者が協力して進めている平和への努力と功績が高く評価され、今回の受賞となりました。
当日の贈呈式では、庭野平和賞委員会のスタルセット委員長により選考経過が報告されたあと、庭野総裁から賞状と副賞の顕彰メダル、賞金2000万円の目録がARLPIのオダマ会長ら4人のメンバーに贈られました。
次いで、庭野総裁があいさつ。続いて、河村建夫文部科学大臣(御手洗康・同事務次官代読)、ジェームス・ボリバ・ババ駐日ウガンダ大使、深田充啓・日本宗教者連盟理事長から祝辞が披露されました。その中で、ババ駐日ウガンダ大使は、同国北部の紛争被害に触れたあと、「多くの困難を伴う状況の中、ARLPIの方々は、身の危険を顧みることなく、ウガンダ北部の人々を苦しめている残忍な紛争を終結させるために、たゆまぬ努力を続けられています」と、その取り組みをたたえました。
このあと、ARLPIのオダマ会長が記念講演を行いました。
贈呈式終了後には、日本外国特派員協会で懇親会が行われ、元国連事務次長で、現在、スリランカ問題担当日本政府代表の明石康氏が祝辞を述べました。
【庭野日鑛総裁あいさつ】(抜粋)
ウガンダ北部では、政府軍と「神の抵抗軍」と呼ばれる反政府軍の内戦が長期化し、破壊や略奪、殺害や暴行などが、日常化していると伝えられています。
内戦の中で、特に大きな問題とされているのが、子供の誘拐だと伺っております。反政府軍によって誘拐された子供たちは、「少年兵」として扱われ、強制的に武器を持たされます。子供が、「子供らしく」生活するという、ごく当たり前なことさえ叶わない状況に置かれているのです。
「アチョリ宗教者平和創設委員会」は、こうした子供たちを保護し、身心を癒やすための活動に取り組まれています。紛争は「怒り」から生まれます。人を傷つけることを強制された子供たちの心を癒やすのは、その対極にある宗教的な「愛」と「慈悲」のほかにありません。
「アチョリ宗教者平和創設委員会」のメンバーのお一人がこう語られています。
「私たちは、単に人間による活動を行っているのではなく、神に協力しているのです」と。
この宗教的な信念に貫かれた「愛」によって、「少年兵」を経験した子供たちも、やがては必ず、本来の輝きを取り戻してくれると信じます。
いま、世界各地では、30を超える戦争や紛争が行われています。また身近な社会生活でも、無数の争いが繰り返されています。その原因を突き詰めてみますと、人間の無知ということにいきつきます。あらゆる宗教は、等しく「生命の尊厳」を説きます。本来、すべての存在が大いなる一つのいのちであり、人間は皆、その一構成員として生かされている兄弟姉妹です。だからこそ、すべてのいのちは等しく尊いのです。この真理を知らない、真理を探究する姿勢のないことが、争いを引き起こす一番の原因であり、人間にとっての最大の「罪」ではないでしょうか。
パレスチナ、イスラエル紛争、イラク戦争などをみましても、恨みの連鎖、暴力の連鎖は、とどまることを知りません。「自分は善」「相手は悪」と決めつけ、相互に自己主張を繰り返し、攻撃し合っています。しかし仏教では、苦の原因を相手にではなく、自らの内に見いだそうとします。人間は決して完全ではありません。愚かさ・怒り・貪りなどの心は、誰もが持ち合わせています。むしろ、平和を乱す元凶は自分ではないか、という徹底した内省、サンゲを通してこそ、対立を超え、相互の信頼を醸成することができると教えています。
今回の庭野平和賞を通し、私たちは、こうした恨みの連鎖、暴力の連鎖を断ち切るため、いのちをかけて取り組む「アチョリ宗教者平和創設委員会」の働きを、改めて深く知ることができました。法華経に「地涌の菩薩」、すなわち大地から湧き出てくる菩薩が説かれています。苦悩の多い現実の生活を体験する中で仏の法を楽い、黙々として精進し、無上慧、仏の智慧を求めている人々のことです。釈尊は、この「地湧の菩薩」に娑婆世界の救いを任されました。私は、「アチョリ宗教者平和創設委員会」の皆さまこそ、ウガンダにおける「地涌の菩薩」だと信ずるのであります。
(2004.05.14記載)