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2005年09月30日 「一食を捧げる運動」30周年

「一食を捧げる運動」が今年で30周年を迎えました。同運動は「同悲」「祈り」「布施」を基本精神に、本会会員が取り組んできた平和活動の一つ。月数回食事を抜き、その分を献金するという地道な運動は、30年を経た今、個人、家庭、教会レベルで広がりを見せています。浄財は「立正佼成会一食平和基金」として、アジア、アフリカ、ヨーロッパなど世界各国で環境、開発、福祉、人権・難民などの活動に役立てられています。支援総額は30年間で100億円を超えました。

「一食を捧げる運動」(以下=一食運動)の原点は、江戸・天保年間にさかのぼります。未曾有の大飢饉が続く中、「禊教」の創始者・井上正鐡師が「我れ一飯を捧げて人の餓えを救わん」と説いたのがきっかけとされています。
1974年にベルギーのルーベンで開かれたWCRP2(第2回世界宗教者平和会議)後、WCRP加盟教団の中で松緑神道大和山がいち早く取り組みをスタート。本会では、75年に庭野欽司郎・青年本部長(当時)が、宮城県石巻市で行われた青年部大会で「節食運動」を提唱したのをきっかけに、青年部活動として全国的に広がりました。
「一食を捧げる運動」の名称で取り組みが始まったのは1980年。その前年秋、庭野日敬開祖は朝日新聞『論壇』で一食運動を提唱。80年の佼成新聞新年号の年頭法話で『人類の新しい生き方とはこのように真理に即した、しかも具体的な、日常的な捧げ合いの生活であることを知り、「よし、自分もやろう」という決意を起こされることを、私は心の底から願ってやみません』と全会員に呼びかけました。以来、「同悲」「祈り」「布施」の基本精神のもと、月数回(青年部は毎週金曜日)、食事を抜き、その分を世界の人々の幸せを願って献金するという地道な活動が続けられています。会員一人ひとりに支えられた「立正佼成会一食平和基金」は、30年間で100億1266万5715円となりました。

立正佼成会会長 庭野日鑛 メッセージ

一食を捧げる運動30周年の節目に寄せて

立正佼成会会長
庭野日鑛

「一食を捧げる運動」が今年で30年という節目を迎えました。この間、全国で大勢の皆さまが取り組んでくださいましたことに、心から「ありがとうございます」の一言を申し上げたいと思います。
30年の歳月の中で、皆さまから寄せられた浄財は、総額100億円を超え、世界の幅広い分野に役立てられてきました。私自身、そうした「一食運動」の支援先を実際に訪れる機会も頂いてきました。

紛争終結から間もないボスニア・ヘルツェゴビナでは、現地の諸宗教代表の方々とお会いし、対話と和解の大切さについて意見交換することができました。WCRP(世界宗教者平和会議)国際委員会のプロジェクトでしたが、この融和への歩みも「一食平和基金」の支援が土台となっていました。ボスニアの子どもたちには、直接「愛のポシェット」(現在のゆめポッケ)を手渡すこともできました。この運動には、「一食平和基金」から輸送費などが支援されていました。子供たちの喜んでいる様子を見て、私までうれしくなったことを今も鮮明に覚えています。

またカンボジアでは、国立仏教研究所の落成式に出席させて頂きました。紛争で壊滅的な打撃を受けたカンボジアにとって国立仏教研究所の完成は、仏教復興、国家再生のシンボルと大きな期待が寄せられていました。こうした重要な事業に会員の皆さまの浄財が役立てられたことは、まことに意義深いことであります。

「一食運動」を通して、一人ひとりのなせることは、小さなことかもしれません。しかし、それが大勢の方々によって行われたことにより、大きな力となりました。このことを、現地で改めて思い知ることができました。

月のうち何回か一食を抜き献金させて頂く、自分もひもじい思いをして苦しんでいる方々の苦を少しでも共有する。「一食運動」は、こうした「同悲同苦」の精神を大切にしてきました。私たちは、自分の悲しさ、苦しさが分かって、初めて他の悲しさ、苦しさが分かります。その意味で、実際に一食を抜き、その分を捧げるところに、大切な点があるといえます。

仏教では、この世の全ての存在は「無常」の真理に貫かれている大いなる一つのいのちであると教えています。この真理を悟れば、自他は一体であり、他の苦しみ、悲しみは自らのものとなります。これが真の意味の「同悲同苦」ということでありましょう。皆が一つのいのちを生きる兄弟姉妹――その自覚に立てば、悲しみ、苦しんでいる方々に手を差し伸べるのは、決して特別なことではなく、当たり前のことです。

宮沢賢治は、『世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない』といいました。人間は、悲しみ、苦しんでいる方々を放っておいて、自分だけ幸福な生活ができれば、それで満足かというと、決してそうではありません。「みんなが幸せになって欲しい」という願いを、本来誰もが心の奥底に宿しています。

この衷心の願いから生まれる慈悲の心、思いやりの心を、家庭や社会で、また国や世界に向かって発揮することが、何より大切であります。そして「一食運動」は、慈悲の心、思いやりの心を活かす最も身近な実践の一つです。

世界に暮らす60数億の人々の中で、十分な食べ物が手に入るのは、およそ2割に過ぎないといわれます。一方、日本では毎日、2000万人分もの食糧が捨てられているという統計すらあります。私たち日本人は、豊かさの中で、どう生きることが大事かという肝心なことが分からないまま、突き進んできてしまったといえそうです。

その意味で私は、「一食運動」を単に一食を抜き献金するということにとどめず、生活全般を見つめ直し、省みる機縁とすることが大事ではないかと考えています。特に日本人は、いま、食べ過ぎの傾向にあり、「一食運動」によって月に何回か断食することは、健康面にも良い影響を与えます。「一事が万事」という言葉があるように、「一食運動」を通して、嗜好品、買い物など、いわばライフスタイルそのものを振り返り、無駄を省き、簡素な生活を心がけるきっかけとすることができれば、とても意義深いことです。

「一食運動」は、いつでも、どこでも、だれでもが、いつまでもできる運動といわれます。この「いつまでも」ということが非常に大事です。継続することによって、私たちは、慈悲の心、思いやりの心を、ずっと忘れることなく持ち続けることができるからです。「献金」も重要ですが、むしろ私たちは「一食運動」を通して、仏さまの心に近づかせて頂いている――そこに大きな意味があるのではないかと思います。とりわけ青年の皆さんが取り組んでおられることは、これから世界を背負って立つ方々が、若いうちに大切な心を培うという意味で、未来に向け、明るい希望を持つことができます。

このように見ると「一食運動」は、大乗仏教、在家仏教にふさわしい活動です。お互いさま、今後も、心を込めて取り組んでまいりたいものであります。

(2005.09.30記載)

REST代表 ティクレオイニ・アセファ氏 メッセージ

一食を捧げる運動30周年に寄せて

ティグレの環境と生活を改善するために
共に手を取り合い協力する
REST(ティグレ救援教会)と佼成会

REST代表          
ティクレオイニ・アセファ

私たちが活動を進めるエチオピア・ティグレ州の自然環境はきわめて劣悪です。長年の干ばつに加え、森林伐採や過度な農地の開墾が環境悪化につながり、水が供給できない状況にあります。そのため、住民は耕作ができず、家族が1年間に食べる分の食料さえ確保することができません。調理に使う薪も乏しく、女性は何時間も探し回らなければならない状況です。飲料水の不足は高い死亡率と重要な家畜資源の喪失を招いています。
このような環境破壊を改善するため、1993年に立正佼成会と私たちの団体「REST」との間で、2つのプロジェクトをスタートしました。RESTが実施している植林や水資源保全活動などに対する立正佼成会一食平和基金の資金援助と、もう一つは立正佼成会会員による植林ボランティア活動です。毎年、隊員たちが村人と力を合わせて、植林活動を行い、そうした中から環境破壊による深刻な状況や貧困の苦しみに対する理解を深めています。12年以上にわたる立正佼成会の支援を通し、苗床の運営が可能となり、アカシア、ユーカリなど1270万本の苗が生産されました。ティグレ州のサムレにある10の村では荒廃した土地に苗が植えられました。苗木の生存率は90%に達し、立正佼成会のボランティア隊が植えた木々は、わずか2年で2メートルの高さに達しています。
立正佼成会のプロジェクトによって、かつては不毛の地だったティグレが今では、緑の生い茂る肥沃な環境に変わりつつあります。
木々は山々のふもとで生い茂り、かつて消滅した野生生物の生息環境が復活しつつあります。放牧地の土質が改善され、テフ(エチオピア人の主食である「インジェラ」の原料)やトウモロコシなどの主要産物を生産することも可能になりました。最重要である飲料水と灌漑用水が供給できるようになったのです。しかし最も印象的なことは、農民自身の意識の変化です。プロジェクトを通し、どのように環境を保全するか、持続的な環境保全からどのような利益を得ることができるかについての知識が高まり、未来の世代のために自然資源を維持しようという意識も芽生えつつあります。
農民たちは言います。「私たちは遠い日本からわざわざこの村に訪れた立正佼成会の皆さんのことを最初は理解できませんでした。しかし皆さんと共に協力して植林活動を行う中で、私たちは、私たち自身のために環境を保全すること、そのために一生懸命働くことの大切さを教えて頂きました」。立正佼成会植林ボランティア隊の存在は、サムレの自然環境とそこに住む人に新たな「いのち」を吹き込みました。長きにわたる"人間味と個性あふれた"開発支援は、世界で最も困窮するこの地域で、相互協力と平和共存の促進に向けた重要な役割を果たしています。

(2005.07.15記載)