与党の有志議員を中心に議論されていた二つの臓器移植法改正案が3月31日、議員立法として衆議院に提出されました。一案は河野太郎議員(自民党)らがまとめ、「脳死を一律に人の死」とし、本人の拒否の意思がない場合は、家族の同意だけで臓器の提供を可能とするもの(河野案)。もう一案は斉藤鉄夫議員(公明党)が提案し、現行法の枠組みを維持したまま、提供の意思表示ができる年齢を現行の15歳以上から12歳以上に引き下げる内容です(斉藤案)。両案は臓器提供者の増加をねらいとしています。一方、脳死を一律に人の死とすることに対しては、社会的合意が得られていないと言われています。近年は脳死者の長期生存や脳死と診断された妊婦による出産例などが報告され、脳死を死とする医学的根拠の再検討も叫ばれ始めました。本会では、昨年3月に山野井克典理事長名による『臓器移植法改正案に対する提言』を発表。改正案の問題点を指摘し、拙速な改定を行わないよう求めています。
平成9年に成立した現行の「臓器移植法」では、人間の死は従来通り、三徴候(心拍停止・呼吸停止・瞳孔散大)によって判断されるものであり、移植の場合に限ってのみ脳死を人の死と認め、本人の提供意思の表示と遺族の同意を条件に臓器移植を行うことができます。「移植の場合に限り、脳死は人の死」「本人の意思の尊重」との原則は、臓器移植法案が同6年4月に初めて国会に提出されて以来、国会はじめ法曹界や宗教界、各市民レベルでの国民的な激論を経て決定された基本理念とされてきました。
そうした中、今回、提出された「脳死を一律に人の死とし、家族の同意だけで臓器提供を可」とする河野案は、現行法成立の際、積み重ねられた議論を覆す内容となっています。斉藤案についても、民法の定める遺言可能年齢を参考に15歳以上と規定された提供年齢を12歳以上とすることには法的根拠が乏しいと言われています。さらに、両案とも新たに家族への優先提供を認めており、今後、医療の公平性などの観点から論議を呼びそうです。
脳死による臓器移植に関して本会では、中央学術研究所生命倫理問題研究会が同3年、『脳死・臓器移植問題に関する意見』を脳死臨調(臨時脳死及び臓器移植調査会)に提出しました。同6年には「脳死を人の死と規定して臓器移植を推進しようとする法律案には賛成できない」とする『「臓器の移植に関する法律案」に対する見解書』を発表。脳死による臓器移植を「緊急避難的な過渡期の医療」とした上で、脳死を一律に人の死としないこと、臓器提供における本人の意思の尊重などを要望し、慎重かつ厳正な国会審議を求めました。
今回の改正案についても、一昨年2月に自民党内で改正の動きがあると報じられた直後から、中央学術研究所生命倫理問題研究会で慎重な議論が進められました。昨年3月11日には山野井理事長名による『臓器移植法改正案に対する提言』を発表するとともに、自民党、民主党に提出し、臓器移植を推進するためだけに提供条件を大幅に緩和する改正案の問題点を指摘した上で、「現行法制定過程において見られた多様な見解、意見の相違は現在も埋まっていない」とし、あらためて「脳死を一律に人の死」としないよう要望。臓器移植法の見直しにあたっては医学的視点のみならず、社会的、文化的、宗教的な観点から国民の幅広い議論を行い、厳正で慎重な対応を図るよう求めてきました。
改正案に関しては、本会だけでなく、さまざまな教団から「脳死を一律に人の死」とすることに対して異論や慎重論が出されています。今年3月14日には、日本弁護士連合会が『「臓器の移植に関する法律」の見直しに関する意見書』を発表し、現行法施行後の実施例を含めた法施行状況の検証が行われず、脳死に関する市民の十分な理解のない現状で、脳死を一律に死とし、臓器の摘出条件などを緩和する改正案には反対を表明しています。
今回の改正案提出を受け、本会では今後、国会議員への要望を含め対応を協議する予定です。
(2006.04.07記載)
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