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2006年12月07日 本会「臓器移植法改正案に対する提言」を本会推薦議員の厚生労働委員に提出

国会に「臓器移植法」改正案が提出されていることを踏まえ、本会は12月7日、本会推薦で衆議院厚生労働委員の議員に対して、新たに山野井克典理事長名による『臓器移植法改正案に対する提言』を提出しました。同日、中央学術研究所の今井克昌所長が東京・千代田区の衆議院議員会館を訪れ、厚生労働大臣政務官の菅原一秀議員(自民党)、民主党の三井辨雄議員(厚生労働委員会理事)、山井和則議員(同理事)ら7人に届けました。今回の提言は、昨年3月11日に発表した同名の『提言』をもとに、改正案の骨子に対して意見を述べたものです。生命の尊厳を守る立場から、現行法の基本理念を尊重するよう求めています。

現行の臓器移植法では、人間の死は従来通り、三徴候(心臓の鼓動と呼吸が停止し、瞳孔が開く)によって判断されるものであり、移植の場合にのみ脳死を人の死と認め、本人の提供意思の書面での表示と遺族の同意を条件に臓器移植を行うとしています。「移植に限り、脳死は人の死」「本人の意思の尊重」はさまざまな国民的議論、度重なる法案修正を経て決定された基本理念です。また、臓器提供の年齢制限は、民法の定める遺言可能年齢を参考に15歳以上と規定されてきました。
現在、議員立法として2改正案が国会に提出されています。中山太郎衆院議員ら自民党有志議員が提出した案は「脳死を一律に人の死」とし、本人の拒否の表明がない場合は、家族の同意だけで臓器の提供を可能とするもの(A案)。斉藤鉄夫議員(公明党)からの案は現行法の枠組みを維持したまま、提供の意思表示ができる年齢を現行の15歳以上から12歳以上に引き下げる内容(B案)となっています。
今回、提出された提言では冒頭、両案がともに「臓器提供の条件をゆるめ、臓器提供者の増加を狙いとしている」と指摘。その上で、A案に対しては、これまでの議論を軽視し、現行法の基本理念を根本から覆す内容だとして問題点を明らかにしています。B案については、提供年齢を12歳以上とすることには法的根拠が乏しく、安易な改定に懸念を表明しています。
12月7日、衆議院議員会館を訪れた今井所長は本会推薦の衆院厚生労働委員と面会。今年4月の厚労省研究班からの報告に触れ、臓器摘出が認められている全国31病院の医療スタッフへの意識調査で「脳死を人の死とすることが医療的に妥当」と答えた人が4割に満たない状況を示し、社会的合意を経ないまま、現行法の基本理念を改定することがないよう要望しました。

■「臓器移植法改正案に対する提言」(全文)

はじめに
このたび与党の有志議員から、二つの臓器移植法改正案が議員立法として衆議院に提出されました。一案は、「脳死を一律に人の死」とし、本人の拒否がなければ家族の同意のみで臓器提供を可能とするA案(中山太郎衆議院議員らの提出した案)、もう一つは現行の臓器移植法の枠組みのまま「提供可能な年齢を15歳以上から12歳以上」に引き下げるB案(斉藤鉄夫衆議院議員らの提出した案)です。両案とも臓器提供の条件をゆるめ、臓器提供者の増加を狙いとしています。
一方、わが国においては、「人の死」は従来から心拍停止・呼吸停止・瞳孔散大の三徴候をもって判断されており、「脳死を人の死」とする社会的合意は得られていません。平成9年施行の現行法は、死生観や立場を異にする各界の間で多くの議論を積み重ね、脳死を一律に「人の死」とすることなく、「臓器提供する場合に限り、脳死を人の死」と規定するほか、「本人の意思の尊重」を基本的理念として制定されました。 
今回提出された「脳死を一律に人の死とし、家族の同意だけで臓器提供ができる」とするA案は、現行法の制定にあたって積み重ねられた各界の議論を根本から覆すものです。B案についても、法的根拠が乏しいことに杞憂を感じます。
脳死・臓器移植は、一人の人間の死を前提として他の人の生命を救うという特殊な医療行為です。ドナー本人の基本的人権や自己決定権は慎重に配慮されねばなりません。
私達は、宗教者として、すべての生命の神聖性を畏敬し、生命の尊厳を擁護する立場から、今国会で審議される臓器移植法改正案に対して、下記のとおり提言すると共に、国民各界各層による幅広い意見をもとに、慎重かつ厳正な国会審議が行なわれるよう強く望みます。

一、脳死と「人の死」
脳死を一律に「人の死」とすることは出来ない。たとえ脳死の状態であっても、心臓が動き、血液が循環し、代謝が行なわれ、免疫機能が残っている温かい人間の身体を死体とは認めがたい。脳及び心臓の機能と有機的統合体としての個体生命のあり方を考えるとき、脳死は「人の死」そのものではなく、死への進行過程であると認識すべきである。
生命個体としての人間の死は、従来どおり、心拍停止・呼吸停止・瞳孔散大の三徴候をもってみるのが、最適と考える。 
臓器移植の場合は、ドナー本人の意思を尊重し、各人の死生観にゆだねる。
    
二、本人の提供意思の確認
現行法は、「本人の意思尊重」を基本的理念に掲げている。脳死と判定された人体からの臓器移植は、本人の任意による提供の意思を尊重して法的に容認された医療行為であるから、本人の提供意思を必須条件とする。
臓器提供に関する本人の意思には、承諾・拒否・判断保留(不明)の三つの選択肢が考えられる。また人間には意思表示しない権利もある。
本人の意思表示がない場合及び不明の場合は、従来どおり、臓器摘出はできないものとする。

三、十五歳未満の者の意思表示
十五歳未満の者の意思表示については、親権者の承諾を含めて、適切な法的措置を講ずる。六歳未満の者については、臓器摘出の対象から除く。 

四、脳死判定
脳死判定は、従来どおり、本人の書面による意思表示及び家族承諾を必要とする。

五、移植医療に関する啓発及び知識の普及
移植医療に関する啓発及び知識の普及については、人道的・文化的・社会的見地から、各界の合意を得て適切に推進されるべきである。

六、医の倫理と総合的な医療福祉対策
医療の仁術としての倫理観と信頼の回復を基調とした全人的な医学教育の充実、臓器移植に代わる医術の研究開発など、文化福祉国家に相応しい総合的な医療福祉対策が推進されなければならない。

七、国民的理解と協力
脳死臨調及び現行法制定過程において見られた多様な見解、意見の相違は現在でも埋まっていない。脳死を人の死とすることにしても国民のコンセンサスが得られておらず、先に提出した『見解書』 の主旨が考慮されていないことに憂慮を抱いている。ましてや現状の必要性にだけ対応しようとする拙速な改定は危険である。相異なる意見や立場の人びとが十分に論議を尽くし、国民的理解と協力の得られる対応が望まれる。

むすび
臓器移植法の在り方は、各国の国民性、科学技術、医療水準、精神文化、宗教事情など社会的・文化的要因に大きく依存するばかりでなく、各個人の死生観、倫理観、価値観など、人間存在の意義に深くかかわっています。
臓器移植法の見直しにあたっては、国民各界各層の意見と協力を幅広く取り入れ、わが国の文化福祉国家として相応しい医療制度の実現に最善を尽くされることを、立法・行政の諸機関をはじめ関係各位に対して、私たちは衷心から要請致します。

以上

立正佼成会理事長
山野井克典

(2006.12.15記載)