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2008年11月21日 庭野平和財団が設立30周年記念シンポジウム開催

『地域社会とGNH(国民総幸福量)』をテーマに庭野平和財団設立30周年記念シンポジウムが11月21日、セレニティホールで開催され、80人が参加しました。GNHはブータンの前国王によって提唱され、GNP(国民総生産)やGDP(国内総生産)といった経済発展の指標ではなく、幸福度によって豊かさを計ろうとする概念。当日は『日本におけるGNHの向上に地域社会がどのように取り組むか』について議論が交わされました。 

シンポジウムでは、大阪大学の草郷孝好准教授が『地域社会とGNH:ブータンと水俣から学ぶ社会創造』と題して基調発題に立ち、GNHが世界で注目を集めている現状を報告。高度経済成長を経た日本での自殺率の高さ、また就業と失業で幸福感が増減する研究結果などに触れ、「経済指標や物質的な富裕が人間の幸福を表しているわけではない」と指摘した。その上で、幸福な社会づくりの実践例としてブータンと熊本県水俣市の取り組みを挙げました。
ブータンでは物質的豊かさのみを追求するのではなく、仏教の理念に基づき、自然環境との共生や伝統文化の継承、公正な社会経済の発展に力を注いでいることを説明しました。水俣では水俣病によって住民間に生じた分断や対立の解消、社会再生に向けた近年の歩みを紹介。住民を主体とした行政の実施、環境先進モデル都市への努力、地元の生活や自然、文化に着目し、住民の自信や誇りにつなげた取り組みを報告しました。
両地域の活動を通して、「幸せや希望づくりには自然と人間の共生が不可欠。成長一辺倒の開発は、高度産業技術で自然を征服する発想で進められてきた。今は経済利潤をあげるために人間自身をも切り捨てられている。二つの地域は人間が持ってきた知恵、思想を大切にし、人と人、人と社会、人と自然のあり方を構築し、豊かさを高めていこうとしている」と述べました。
このあと、パネルディスカッションが行われ、草郷氏に加え吉井正澄・前水俣市長、WWB/ジャパン(女性のための世界銀行日本支部)の奥谷京子代表、「足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ」の大河内秀人理事がパネリストとして登壇しました。
この中で、吉井氏は公害発生とその後の住民対立による水俣の苦難の歩みを説明。住民の対話と地元の生活や文化に着目した活動を進め、住民の満足度が高く、環境モデル都市としてよみがえるに至った理念と取り組みを紹介しました。「経済は大事だが、GDPというものさしでは計れないものを大切にしたい。それは安全、安心の生活や人権の大切さ、美しい自然環境、地域の文化伝統、助け合う社会です」と語りました。
また、奥谷氏は若者の起業をサポートしてきた体験の中で、若者が島根県の過疎地域の老舗旅館を引き継ぎユニークな経営で、地域の活力となっている活動を報告。若者の発想や能力を信じ、引き出していく大切さを力説しました。大河内氏は地球温暖化が進む中で、一人ひとりが地球や社会、他の人々とのつながりを意識しながら、自身の生活のあり方を見つめ直していく必要性を指摘。「友達や仲間は何よりの財産。よき人間関係を築き、それぞれの能力や個性を発揮し、さらに人間関係をつないでいくことが信頼のコミュニティーをつくっていくことになる」と語りました。

(2008.12.5記載)