1月初旬より激化したパレスチナ自治区ガザでのイスラエル軍とパレスチナのイスラーム原理主義組織ハマスとの軍事的衝突を受け、WCRP(世界宗教者平和会議)国際委員会は同19日から21日までの3日間、フランス・パリ市内のホテルなどを会場に「イスラエル・パレスチナ青年宗教者緊急会議」を開催しました。エルサレム市内に暮らすユダヤ人、アラブ人(以下、パレスチナ人)の青年宗教者8人が参加。対話を重ねて相互理解を深めるとともに、60年に及ぶイスラエル・パレスチナ問題の解決、同地域の未来に向けて行動していくことを決議しました。また、WCRP国際青年委員会(IYC)の呼びかけにより、世界各地の青年宗教者が同会議の開催に合わせ、暴力の即時停止、同問題の解決、和解への願いを込めた「祈り」と「行動」を展開。日本では「パレスチナ・中東危機に対する平和のメッセージ」(1643通)が集められ、会議参加者に届けられました。
イスラエルとパレスチナの対立は、国際社会の最も深刻な問題といわれ、その歴史は60年に及びます。今回の約3週間にわたる軍事的衝突(18日にイスラエル軍が停戦を宣言)ではガザでの死者が1300人を超え、民間人、中でも多くの子供たちが犠牲になりました。
WCRP国際委員会では1月中旬、事態の深刻化を踏まえ、パリで宗教指導者と青年の両カテゴリーで和平促進を目的とした緊急会議の開催を決定。しかし、イスラエル(ユダヤ教)、パレスチナ(キリスト教、イスラーム)双方の高位宗教指導者の出国が認められなかったため、やむなく指導者レベルの会議を延期し、青年会議のみが実施されました。
19日から行われた「イスラエル・パレスチナ青年宗教者緊急会議」は同フランス委員会、イスラエル諸宗教対話協議会(ICCI)の支援を受けて開催されました。同国際委員会から杉野恭一事務総長補、同事務総長青年担当特別アドバイザーの松本貢一本会青年本部長が出席。また、ジャクリーン・ルジェ同国際名誉会長(ユネスコ代表)、メーレジア・ラビディ・マイザ同国際共同会長(国際女性ネットワーク委員会=IWCC=代表、女性地位向上委員会事務局長)、ハンス・ウコ同欧州委員会会長も青年の取り組みを支えました。
会議は、参加者が現在の心情を語り合うことからスタートしました。それぞれ軍事的衝突が続いた3週間を振り返り、恐怖や悲しみ、犠牲者への哀悼とともに「みんな苦しんでいる。でも、私たちにはどうすることもできない」といったいら立ちを打ち明けました。
今回の参加者は、ICCIらの呼びかけに応え「対話」による和解の可能性に期待し、集った青年たちです。だが、ガザで緊張が続く状況下のプレッシャー、またグループを代表して参加した責任感から、日常生活で互いに感じている違和感やストレスなどを語るうちに感情的になり、対話や他者を受け入れる難しさ、苦しみを正直に打ち明ける場面も見られました。一方で、「自己中心なものの見方をどう乗り越えていくかが大事」「信仰を持つ人間としてどう生きていくか、何をしていくか。もっと自分に高い要求をしていかなければならない」といったユダヤ、パレスチナ双方の年長者の意見に耳を傾け、自らの心と向き合いました。
次いでユダヤ、パレスチナに分かれ、それぞれの課題などについて討議を行ったあと、「声明文」作成のための議論に入りました。ここでは、「暴力」「占領」という二つの言葉をめぐり、参加者の間で見解が分かれました。「自衛のための暴力はやむを得ない」と主張するユダヤ側、「占領がそもそも対立、暴力の原因をつくった」と訴えるパレスチナ側。WCRP国際役員たちの助言を受けながら、参加者たちは自らの思いを率直に述べ、同時に相手の意見を真摯(しんし)に受け止め、長時間にわたり対話を続けました。
最終的に参加者たちは、イスラエル・パレスチナ問題に対する双方の現状、歴史認識の相違を踏まえた上で、「対話」によって生まれる未来への希望を共有することに同意しました。今後、今回の参加者がリーダーとなり、エルサレム市内の多くの人に対して「対話」の機会を提供していくことやユダヤ、パレスチナの青年が独自に取り組むプロジェクトに相互に参画することなどを決め、「声明文」をまとめました。
会議2日目にあたる20日には、松本青年本部長がスピーチに立ち、困難な状況下、さまざまな思いを抱えながら「対話」に臨んだ参加者を讃(たた)えました。併せて、日本から寄せられた1600通を超える「平和メッセージ」を紹介しました。また杉野事務総長補がアジアやヨーロッパ地域の青年宗教者ネットワーク、アフリカ・ウガンダの同ネットワークでも取り組みが展開されていることを説明し、世界の青年宗教者の連帯を伝えました。
なお、開催地となったフランスのマスコミも会議に注目しました。欧州最大のムスリム、ユダヤ教徒人口を抱えており、イスラエル・パレスチナ問題への関心が高まっていました。開催中、参加者はTVをはじめラジオ、新聞などの取材を受けました。
WCRP日本委青年部会が「パレスチナ・中東危機に対する平和のメッセージ・キャンペーン」
WCRP(世界宗教者平和会議)日本委員会青年部会(幹事長・松本貢一本会青年本部長)は1月15日から20日までの6日間、フランス・パリでの「イスラエル・パレスチナ青年宗教者緊急会議」開催を支援する目的で「パレスチナ・中東危機に対する平和のメッセージ・キャンペーン」を実施しました。メッセージはEメールで受け付けられ、締め切り日の20日までに1643通が寄せられました。
キャンペーンは同青年部会の呼びかけに応え、本会などWCRP、新宗連(新日本宗教団体連合会)加盟教団の青年代表やリーダーらが所属団体で展開。募集を開始した15日から、同青年部会が開設したEメールアドレスに続々とメッセージが寄せられました。キャンペーン賛同者が主体的に友人知人らに伝えたことから、海外やNGO(非政府機関)、NPO(特定非営利活動法人)関係者からも多数が届きました。
同青年部会によると、寄せられたメッセージにはパリでの会議参加者を激励するものをはじめ、ガザでの軍事的衝突の即時停止とイスラエル・パレスチナ問題の和平促進を願うもの、また世界の平和実現に向けた自らの実践目標や平和について家族で話し合った内容などが記されていたといいます。
1643通のメッセージは20日、会議に出席していた松本青年本部長のもとに送付されました。松本本部長は席上、いくつかのメッセージを読み上げながら、日本で青年宗教者ら多くの人々がイスラエル・パレスチナ問題に心を寄せ、平和の実現に向けた「祈り」と行動を展開していることを紹介し、参加者を激励しました。
また、同青年部会は23日、すべてのメッセージを駐日イスラエル大使館、駐日パレスチナ総代表部に送付。イスラエル諸宗教対話協議会(ICCI)とパレスチナのNGO「パノラマ」の代表にも送付し、併せてイスラエル、パレスチナ双方の政治指導者へ届けられるよう要請しました。
「平和のメッセージ」へのお礼
青年本部長 松本貢一
このたびは急な呼びかけにもかかわらず、多くの皆さんから心のこもった「平和のメッセージ」を寄せて頂きましたことに深く感謝を申し上げます。
寄せられたメッセージを拝見し、皆さんがイスラエル・パレスチナ問題を自分の問題ととらえ、心を痛め、真摯(しんし)に平和への祈りを捧(ささ))げてくださっている姿が目に浮かびました。また、普段の行いや言動を振り返り、ま
ず自らが平和を築いていく決意を新たにしてくださったことに大変感激いたしました。
会議参加者にメッセージを紹介させて頂くと、大変喜び、「勇気づけられた」と語ってくれました。また、「われわれの問題から学ぼうとする姿勢を示してくれたことが大きな励みとなった」という意見も伺いました。
今後もお互いさま、あらゆる問題をひとごととせず、深い「祈り」とともに自らの出来ることを精いっぱいさせて頂きたいと思います。このたびは誠にありがとうございました。
合掌
(WCRP日本委員会青年部会幹事長)
(2009.1.30記載)