「第27回庭野平和賞」の受賞者がインドのヒンドゥー教徒で、会員120万人を数えるSEWA(自営女性労働者協会)創始者のエラ・ラメシュ・バット氏(76)に決定しました。庭野平和財団(庭野日鑛総裁、庭野欽司郎理事長)は2月24日、京都普門館で記者発表会を開き、席上、庭野理事長が公式に発表しました。同氏は1972年、差別と抑圧を受けてきた貧しい女性の労働条件の改善、生活向上を目指し、SEWAを設立。「真実」「非暴力」といったマハトマ・ガンジーの理念や宗教的精神を基に女性の経済的自立を推進し、彼女たちが自信と能力を身につけることによって地位向上や社会変革をもたらす活動に取り組んできました。贈呈式は5月13日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で行われます。
庭野平和賞は宗教的精神に基づいて宗教協力を推進し、世界平和の実現に顕著な功績を残した個人・団体に贈られます。125カ国、約700人の学識者、宗教者らに推薦を依頼し、庭野平和賞委員会(各国で宗教協力や平和活動に取り組む12人の宗教者、識者らで構成)で厳正な審査を行い、今回の受賞者が決定しました。
バット氏は1933年、インド・グジャラート州アーメダバードに生まれました。ガンジーの独立運動に参加した祖父母からガンジー主義の影響を強く受けました。グジャラート大学で英文学と法律学を学んだ後、ガンジーによってアーメダバードに設立されたインド最古の労働組合「繊維労働組合」に就職。女性の労働問題を任されました。
この間、イスラエルに留学し、労働組合と協同組合の活動について研究。帰国後、露天商や行商人、たばこ巻きや刺繍(ししゅう)などを自宅で行う家内労働者、農業や建設、皿洗いに日雇いで従事する労働者など過酷な条件下で働く女性の問題に直面しました。
組合や行政からの保護もなく、公式に記録されない、こうした未組織部門(インフォーマルセクター)で働く人々はインドの労働人口全体の90%を超え、過半数を女性が占めます。同国では、一般的に家庭や社会で女性の地位が低い上、未組織部門で働く女性の多くは低いカーストのために差別され、読み書きができないために弱い立場に置かれ、法定以下の低賃金と長時間労働を強いられていました。資本がないために高利貸からの借金に苦しみ、路上では警察、役人による嫌がらせや賄賂(わいろ)の要求、仲買人による搾取など構造的な暴力を受けていました。
同氏は71年、貧しい女性の労働条件の改善を図るため、軽視されてきた彼女たちの働きを「自営」と肯定的に表し、SEWAを結成。翌年、労働組合として正式な登録を受けました。会員となった女性たちはカーストや宗教の違いを超えて連帯し、不正に立ち向かい、正当な権利を求めて非暴力・不服従の運動に取り組みました。
74年には、SEWA銀行を設立。貧しい女性たちの預金、融資の利用を可能にし、協同組合活動を進めました。生産技術の習得、資材購入、会計、市場調査、交渉、販売に関する教育の機会を提供。女性の生活向上と経済的自立、さらに財産の所有や意思決定を可能にする社会的自立の実現に努めました。
現在、SEWAの会員は120万人。同銀行の利用者は300万人に達します。同州の14地域のほか、7州で事業を展開し、保育や法律相談、識字教育などの支援も行われています。
SEWAはガンジー主義の哲学や宗教的精神を基盤とし、女性が自尊心と能力を身につけることによる権利の回復や社会変革を目指してきました。同氏は「ガンジー主義の思想はSEWAの貧しい自営業の女性たちの道しるべとなり、社会改革を進める原動力です。私たちはサティヤ(真実)、アヒンサー(非暴力)、サルヴァダルマ(諸宗教への尊重と人々の調和)、カーディ(地域雇用と経済的自立の推進)の教えに従っています」と話します。
こうした同氏の活躍は国際的な場にも広がり、WWB(女性のための世界銀行)、WIEGO(インフォーマル経済で働く女性の国際組織)などの創設に尽力。現在はWWB理事や南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領らの呼びかけで結成された人道組織「エルダーズ」のメンバーなど多くの要職を務めます。
庭野平和賞委員会は、同氏の非暴力主義に基づく実践、その中で示された献身と勇気を高く評価し、庭野平和賞の贈呈を決定しました。
贈呈式は5月13日に日本外国特派員協会で行われ、庭野総裁から正賞として賞状、副賞として顕彰メダルと賞金2000万円が贈られます。
第27回庭野平和賞受賞者メッセージ
このたび庭野平和賞受賞の栄誉を賜り、SEWA(自営女性労働者協会)の姉妹を代表して慎んでお受け致します。この賞は、インドの貧しい自営労働の女性たちが勇気と尊厳を持って取り組んでいる仕事と自立を通じて、社会に平和をもたらすその努力に支援の手を差し伸べてくださるものです。
私たちの住む世界は今、混乱の中にあります。国家や民族の違いによる格差、資源配分の不平等があります。人々が労働の成果を公正に享受できなければ、私たちは不公正な社会基盤に置かれることになります。
貧困は、社会が人間の労働に敬意を払わないために起こります。個人の人間性や自由を奪うものであり、恒久的に続く暴力です。人間性を危うくするものを受けいれるわけにはいきません。
解放への道は仕事であり、それは人生の中心にあるものと信じています。ここでいう仕事は、搾取を意味する苦役や低賃金労働ではありません。真の仕事とは、食物の生産や安全な水を得ることであり、人間が何千年もの長きにわたって培ってきた農業、牧畜、林業、建設、繊維業といった伝統技術を発展させることです。人々に食べ物を与え、自分自身を取り戻し、仲間との関係を改善し、さらに私たちの創造主との関係も修復してくれます。
生産的な仕事は社会を紡ぐ糸です。仕事を持つことによって、安定した社会を維持する動機が得られ、未来を設計し、不安定さを軽減する財産を築くことができます。次世代の育成に投資することが可能になり、仕事は平和をつくり、それぞれの人生に意味と尊厳を与えてくれるのです。
また、女性は社会を築く上で鍵となる存在です。家族の基盤を育み、安定した社会のために働いています。女性の参加は、社会の発展に不可欠であり、建設的で、創造的で、持続可能な手段に基づく解決方法をもたらします。
SEWAは、貧しい自営労働者のための労働組合です。私たちは経済の搾取を阻止するために集まり、組合を結成しました。さらに、生活を向上するために銀行、女性農家や職人の市場開拓のための協同組合をつくりました。私たちのゴールは、貧しい女性とその家族、コミュニティー、さらには世界中すべての人の生活の向上であり、自立と自由を求めています。マハトマ・ガンジーが述べたように、自由は与えられるものではなく、私たち一人ひとりから生み出されるものなのです。
庭野平和財団と関係者の皆さまが、自由への道を歩む私たちの手をとって頂いたことに感謝申し上げます。
SEWA創始者
エラ・ラメシュ・バット
(2010.3.5記載)