ユニセフ(国連児童基金)とWCRP(世界宗教者平和会議)共催のシンポジウム「紛争下・後における子ども保護~宗教者の役割~」が5月14日、東京・港区のユニセフハウスで開催されました。現在、ユニセフとWCRPが合同で進める、フィリピン・ミンダナオ島などでの「宗教者による紛争下・後の子ども保護」事業の意義などを確認する目的で実施され、WCRPの関係者、市民ら約70人が参加しました。
冒頭、主催者を代表して日本ユニセフ協会の早水研専務理事があいさつしました。「子どもの権利と平和の問題において宗教者の果たす役割は非常に大きい」と述べ、宗教者と専門機関が有機的に連携することでさらなる相乗効果が得られると強調。平和を持続可能なものとしていくことが連携事業の目的であると語りました。
このあと、スティーブン・ハマー・ユニセフ本部プログラム事業部市民社会連携担当専門官、杉野恭一WCRP国際委員会事務次長、パブリト・ベィバド・セントトーマス大学宗教研究所教授、木山啓子・特定非営利活動法人「ジェン」事務局長の4人がパネリストを務め、それぞれの立場から同事業に対する見解や期待などを発表しました。
ハマー氏は、子ども保護の分野で活動する団体が宗教者と連携する意義についてユニセフの視点から発言しました。「宗教の持つ崇高な倫理観は人々の思想に影響を及ぼし、対話を促すものである」と述べ、各地域で宗教コミュニティが人々の信頼を得ている現状を報告。ユニセフがあらゆる宗教コミュニティとパートナーシップを築き、支援を展開してきた事例を紹介しながら、「ユニセフとWCRPが協力することで、双方の強みや資産を生かし、子どもを守る取り組みをさらに広く、深いものにしていくことができる」と語りました。
WCRP国際委で事務次長を務める杉野氏は、近年、国連機関の活動や国際的な対話の場面で宗教指導者が果たしている役割を説明し、「宗教共同体の重要性が(世界的に)認識されてきた」と発表。紛争下のシエラレオネで、諸宗教評議会が和平交渉の仲介役を務めた例を挙げ、「紛争下で諸宗教協力とあわせた『子ども保護』の活動を進めることで、各民族、諸宗教間の和解も同時に実現できるはず」と述べ、ユニセフとの協同事業に込めたビジョンを示しました。
続いて、ベィバド教授が、フィリピン・ミンダナオ島でのプロジェクトの意義を報告。「紛争によって最も大きな被害を受けているのは子どもたち」と訴え、心的外傷や心理的ストレスに苦しみながら避難センターで厳しい生活を余儀なくされている現状を伝えました。また、今後の支援のあり方について「諸宗教間の協力体制や宗教コミュニティの関与を強化し、紛争によって影響を受けた子どもたちを守り、心のケアなどに取り組むとともにミンダナオの平和構築に貢献していきたい」と発言。政府や対立する武装勢力のモロ・イスラム解放戦線(MILF)、宗教指導者、子ども保護団体などあらゆる人々を巻き込み、「多様性を尊重しながら結束を強め、協力体制を構築していきたい」と語りました。
紛争や自然災害などの影響で厳しい生活を余儀なくされた人々に対し、自立を目指した支援を展開する「ジェン」の事務局長を務める木山氏は、自身の体験を踏まえ、「紛争や自然災害によって教育の機会を奪われた子どもたちが、貧困のままに取り残されている」と説明。厳しい環境下では自立意欲が奪われていく実態を明かし、宗教者による心理的サポートの重要性を語りました。さらに、紛争解決とともに、紛争を未然に防ぐことが重要であると強調し、信仰によって人々の心に平和をもたらす宗教者の働きに期待を寄せました。
このあと行われたディスカッションでは、各パネリストがそれぞれの体験を交えながらユニセフとWCRPの両機関が手を携えて行動していく大切さを確認。持続可能な平和構築に向けた協同事業の可能性について意見交換しました。
(2010.6.18記載)
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