米・ニューヨークの国連本部で約1カ月間にわたって行われていた「NPT(核不拡散条約)再検討会議」が先ごろ閉会しました。5年に一度、開催される同会議。今回はどのような成果がみられたのでしょう。核兵器廃絶に向け、宗教者にどのような役割が求められているのでしょう。長年、核軍縮問題に携わり、同会議にも出席した神谷昌道ニューヨーク教会長に解説してもらいました。
5月3日から28日までニューヨークの国連本部で開催されていた「NPT(核不拡散条約)再検討会議」は、核廃絶への具体的な措置を含む64項目の行動計画を盛り込んだ最終文書を採択して終わりました。
NPTの主要目的は核軍縮、核不拡散、そして原子力の平和利用を推進することにあります。しかし、これまでの再検討会議では、核兵器国と非核兵器国を差別化するNPTの体質もあって、速やかな核軍縮を求める非核兵器国と、段階的な核軍縮を主張する核兵器国の間で対立が繰り返されてきました。事実、前回(2005年)の再検討会議では、その対立により最終文書の採択に失敗しています。
しかし、その停滞の流れは、オバマ米大統領の登場によって劇的に変わりました。オバマ大統領は昨年4月、チェコのプラハで行った演説で、広島と長崎に原子爆弾を落とした「道義的責任」を認め、核兵器のない世界の達成に向けて米国が指導力を発揮することを世界に宣言しました。同年9月の国連安全保障理事会の決議では核兵器のない世界を標榜(ひょうぼう)、今年4月にはロシアとともに「戦略兵器削減条約(新START)」に調印しました。また、米国の核兵器の役割を低下させる「核態勢の見直し(NPR)」を発表し、その指導力を発揮してきたのです。
そうした追い風の中で、今回の「NPT再検討会議」が開催されました。最終日までの道のりは厳しいものでしたが、無事に最終合意文書が採択されました。その中で、加盟国は「平和で安全な核兵器のない世界を求めることを決意する」と謳(うた)い、核廃絶への具体的な措置を含む64項目の行動計画に合意しました。また、これまで核兵器国の間でタブー視されていたともいえる「核兵器禁止条約」についても公式に言及しました。中東問題の先送りや国際原子力機関(IAEA)による抜き打ち査察が義務化されなかったこと、あるいはNPT脱退問題など課題も残されましたが、核兵器のない世界に向けての確かな一歩を進めたと言ってよいでしょう。
立正佼成会と核兵器廃絶、軍縮問題との関(かか)わりは、開祖さまが1978年、国連史上初の「国連軍縮特別総会」に出席され、世界各国の首脳に法華経の精神を伝え、核兵器のない世界の実現を訴えたことに遡(さかのぼ)ります。82年、88年に開催された同総会でも演説に立たれ、非武装による平和の実現の大切さを述べられました。82年の同総会の際には、核軍縮を願う日本国民の声を表す目的で、新宗連(新日本宗教団体連合会)として3700万人の署名を集め、国連に届けたことが思い返されます。
歴史は繰り返すと言われますが、今年はWCRP(世界宗教者平和会議)の青年リーダーが取り組む「ARMS DOWN!」に本会も参画し、署名活動を通して多くの会員さん方が「共にすべてのいのちを守るため」の行動を展開されています。とかく核軍縮といいますと、ウランやプルトニウム、あるいは核弾頭や運搬手段など、とても専門的であり、一般の私たちが関わる問題ではないという印象を持ってしまいます。しかし、核兵器というのはたった一発の爆弾で多くの尊い「いのち」を葬り去ってしまう非人道的な兵器です。だからこそ、いのちの尊厳に価値を見いだす私たち仏教徒が、率先して核兵器の非人道性を訴え、その廃絶、共にすべてのいのちが守られる世界の到来のために、努力していくことが求められているのです。
開祖さまは生前、国連軍縮キャンペーンの記章をいつも背広の襟に着けてご聖務に励まれておられました。覚えておられる方も多いでしょう。私はそのお姿を思い出すたびに、いつも感じるのです。法華経を信じ実践してこられた開祖さまは、心の底から「この世から尊いいのちを奪う武器──なかんずく核兵器を廃絶し、平和で安全な世界をつくりたい」と思われたのだ、と。
師の求めたるものが核兵器のない世界、核軍縮であるならば、本会の会員として師の求めたるものをわが願いとし、自らが平和の礎となりたいと私は思います。と同時に、教団挙げて、今後も継続的に核兵器のない世界の創出のために役割を果たすことが切に望まれます。たとえその道のりがどんなに遠くても、自分たちの子供、孫、さらには後世の時代に生きる人々が、核兵器のない平和な世界で生活できることを願い、今後の歩みを進めていきたいものです。
(2010.6.11記載)