「第28回庭野平和賞」の受賞者が、タイの仏教徒でINEB(仏教者国際連帯会議)の創設者であるスーラック・シバラクサ氏(77)に決定しました。公益財団法人・庭野平和財団(庭野日鑛名誉会長、庭野欽司郎理事長)は2月28日、京都普門館で記者発表会を開き、席上、庭野理事長が公式に発表しました。同氏は40年以上にわたり、タイで仏教に根差した社会活動に尽力。格差を生み出す消費中心の開発に警鐘を鳴らすとともに、貧困問題といった社会の不公正に立ち向かい、環境保全や若者の教育に力を注いできました。著名な社会評論家であり、「社会参加仏教」の実践者として知られます。贈呈式は5月19日、東京・千代田区の日本外国特派員協会で行われます。
庭野平和賞は宗教的精神に基づいて宗教協力を推進し、世界平和の実現に顕著な功績を残した個人・団体に贈られます。125カ国、約700人の学識者、宗教者らに推薦を依頼し、庭野平和賞委員会(各国で宗教協力や平和活動に取り組む11人の宗教者、識者らで構成)で厳正な審査を行い、今回の受賞者が決定しました。
スーラック氏は1933年、バンコクに生まれ、少年期に仏教寺院で教育を受けました。57年に英国のBBC放送に勤務。翌年、英・ウェールズ大学を卒業し、ロンドンで法廷弁護士の資格を取得しました。
帰国後、63年に雑誌「社会科学レビュー」を創刊。軍事政権下における社会問題を明らかにし、政策提言を行いました。この間、編集に携わることで数多くの草の根組織とかかわり、貧しい人々と共に歩む大切さを学びました。以後、貧困層を支援する農村開発プロジェクトに参加し、仏教僧や学生の活動家と社会運動を展開。60年代後半から、財団や社会福祉団体、NGO(非政府機関)など数多くの組織の設立に中心的な役割を果たしました。
89年、社会活動に取り組む仏教者の国際的なネットワークであるINEBを創設。仏教に基づく社会正義の実現のため、平和や人権にかかわる政策提言、人材育成による地域社会のエンパワーメント、出版といった活動を展開してきました。INEBは現在、アジアを中心に20カ国400人の仏教者らがかかわる組織に成長しました。
環境保全を推進
こうしたさまざまな取り組みの中で同氏は、物質的な欲望を増大させ、貧富の格差を広げる消費を中心とした近代の開発の問題点を指摘。新しい開発モデルとして心の開発の重要性を説き、地域に根付いた伝統や文化、宗教的習慣に基づいて人間的なつながりを強め、コミュニティーに幸福をもたらす発展の推進に力を注いできました。
また、地球規模で進む環境破壊に対し、縁起観など仏教的観点から自然への畏敬(いけい)と環境保全の大切さを主張。僧侶らと協力して森林を保存し、村人に地元の天然資源の活用や節約の方法を伝授する取り組みを続けます。
さらに、バンコク近郊にアシュラム(道場)を開設し、質素な生活を営みながら、他者や社会に貢献する知的、精神的活力を養う場を提供してきました。
宗教対話・協力においても指導的な発言者として知られます。タイ語、英語の著書、論文は100点を超え、2009年に『持続可能な智慧(ちえ)--21世紀の仏教経済学』を著しました。
庭野平和賞委員会は、同氏の仏教への深い見識と権力に対しても真実を語る勇気、国際的な行動力を高く評価し、庭野平和賞の贈呈を決定しました。
贈呈式は5月19日に日本外国特派員協会で行われ、庭野名誉会長から賞状、副賞の顕彰メダルと賞金2千万円が贈られます。
第28回庭野平和賞 受賞者メッセージ
第28回庭野平和賞の受賞者に選出して頂いたことに感謝し、謹んでお受けいたします。
私は過去の庭野平和賞受賞者を何人も存じており、第1回受賞者のヘルダー・ペソア・カマラ大司教を大変尊敬しております。第15回受賞者であるマハ・ゴーサナンダ師とはINEB(仏教者国際連帯会議)で一緒に活動しました。
20年以上前に設立されたINEBは現在、アジアから西洋に至る草の根レベルの仏教ネットワークとして活動しています。より公正で平和な世界をつくるため、ブッダの教えが個人だけでなく、社会的に広く実践されるよう宗派の壁を超えて取り組んでいます。不公平で暴力的な現在の社会構造に異議を唱え、新たな帝国主義や多国籍企業によるグローバル化に対し、新しい開発モデルを提案し続けているのです。
また、現代社会の難問が山積する中、SEM(教育における精神運動)を通じ、すべての人がそれぞれの課題を乗り越える力を身につけられるよう、公的な教育現場のあり方について発言し、教育の普及に向け活動しています。人々は教育により、知恵や知識、慈悲心を携えて、世の中の不平等と戦うことができるようになります。そして、各地域に固有の伝統文化の価値を理解しています。伝統や文化を取り戻し、コミュニティーが活性化することで真の幸福がもたらされるのです。
すべての人の尊厳を認め、心を配り、共に行動するための方策を見いだすこと、また、よりよい世界を目指し、慈悲心を持って、他者を優先して生きる方策を見つけることはわれわれ宗教者の大きな課題です。
庭野平和賞の受賞は大変な名誉であり、光栄なことです。この世に生きとし生けるものすべての希望をかなえるための、未来に向けた受賞であると受け取らせて頂きます。
(2011.03.04記載)