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2012年10月16日 日宗連「第6回宗教と生命倫理シンポジウム」 医療、科学など討議


人間の生死に深くかかわる尊厳死法案に対し、医療や宗教などさまざまな視点から討議が重ねられた

『いま、尊厳死法制化を問う』をテーマに、日宗連(日本宗教連盟)による「第6回宗教と生命倫理シンポジウム」が10月16日、東京・渋谷区の國學院大學で開催されました。日宗連の協賛5団体(教派神道連合会、全日本仏教会、日本キリスト教連合会、神社本庁、新日本宗教団体連合会)などから約230人が参加。立正佼成会から中央学術研究所の川本貢市所長らが出席しました。

今年3月、回復の見込みがなく死期が迫る患者に、本人の意思に基づいて延命治療の中止を可能とする「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(尊厳死法案)」が国会議員連盟から公表されました。同法案に対しては、「いのちの尊厳」をどのようにとらえ、保障していくかについて、個々の医師や研究者の間で見解が分かれています。日宗連では、一人ひとりのいのちと直結する「尊厳死法制化」の諸問題を宗教、科学、医療などの視点から考えようと、今回のシンポジウムを開催しました。
当日は、長尾和宏・日本尊厳死協会副理事長、加藤眞三・慶應義塾大学看護医療学部教授、小松美彦・東京海洋大学大学院教授、戸松義晴・浄土宗総合研究所主任研究員がパネリストとして登壇。島薗進・東京大学大学院人文社会系研究科教授(日宗連理事)がコーディネーターを務めました。
この中で長尾氏は、日本における尊厳死とは「不治で末期の患者が本人の意思で延命治療を断る一方、痛みの除去などの十分な緩和治療を受け、人間としての尊厳を保ちながら自然な最期を迎えること」と報告。「患者さんの希望で死期を人為的に早める」安楽死とは全く異なると説明しました。その上で、症状の回復が望める状態であれば治療を行うべきだが、意思疎通ができない植物状態や、本人の意に反する状況で治療を続けることは「基本的人権にかかわる深刻な問題」と指摘。「尊厳ある死」のためには延命治療に対する意思を示す「リヴィング・ウィル」を一人ひとりが表明すると同時に、法制化が必要と話しました。
一方、患者学を提唱する加藤氏は、糖尿病やアルコール依存症といった慢性病患者のための教室やスピリチュアルケアの普及などに取り組んできた事例を挙げ、「生の尊厳を重んじる医療が患者中心の医療であり、病気や治療に関する情報を提供し、患者や家族と医療者の協働関係を構築することが重要」と主張。インフォームド・コンセントに基づく医療の徹底を呼びかけました。また、今回の法案は、尊厳ある死の尊重以上に、延命治療を中止する医師の免責に重点が置かれているのではないかと話し、法制化に懸念を表しました。
宗教者の視点から発言した戸松氏は、終末期における人々のニーズや死に対する意識調査の結果を紹介。「死に直面した際、宗教は心の支えになる」という人が2008年の約40%から12年では約55%に増えたことを受け、宗教者が死生観を伝えていくことが大切と述べました。さらに、「いのちの問題を法律で決めることには違和感を感じる」とし、人は生まれてから死ぬまで多くの支えを頂いていることを改めて認識すると同時に、皆が最期まで安心して人の手を借りられるよう、「エンディングノートを作成するなど死への事前準備が大切」と語りました。
このあと、質疑応答により討議が重ねられました。

(2012.10.26記載)