全体会議Ⅰの冒頭、庭野会長がスピーチ。大会テーマである「他者と共に生きる歓び」の意義を語った
『他者と共に生きる歓(よろこ)び(Welcoming the Other)――人間の尊厳を守り、地球市民らしく、幸せを分かち合うための行動』をテーマに、第9回WCRP(世界宗教者平和会議)世界大会が11月20日から22日までオーストリア・ウィーン市内のホテルで開催され、約100の国と地域から600人を超える宗教者が参集しました。日本からは正式代表10人を含む約70人が参加。立正佼成会から庭野日鑛会長(WCRP国際共同会長、同日本委員会会長)、庭野光祥次代会長(同日本委特別会員)はじめ国富敬二東京教区長(同日本委理事)らが出席しました。期間中、大会テーマを基に全体会議、分科会などが開かれ、最終日に大会宣言文が採択されました。
今大会は前回の京都大会以来、7年ぶりの開催となりました。この間、WCRPの各国委員会は70から90へと増加。諸宗教のネットワークが広がりつつあります。
大会はKAICIID(アブドッラー国王宗教・文化間対話のための国際センター=本部・ウィーン)の協力で行われました。
開会式は、子供たちと諸宗教の平和への誓いで開幕。オーストリアのユダヤ教チーフラビ・エッセンバーグ師による歓迎のあいさつに続き、国連の潘基文(パンギムン)事務総長のメッセージが披露されました。潘事務総長はこの中で、WCRPが取り組んできた難民支援、開発、人権擁護、和解などの活動を評価した上で、「我々はお互いを寛容の目で見る必要がある。そのためにも宗教者の方々には他者への敵対心に立ち向かって頂きたい。平和に向けた皆さんの役割は大変大きい」と述べました。
このあと、「私たちは諦めてはいけない。すべての人が力を合わせ、お互いを尊重し合う対話と友愛を促進し、人の尊厳を守ることで、最も苦しむ人たちのもとに支援を届けたい」と語るローマ教皇フランシスコのメッセージが紹介されました。
あいさつに立ったウィリアム・ベンドレイWCRP国際委事務総長は、紛争やテロが続き、他者に対する敵対心が増大する中、「他者と共に生きる歓び」を広げる重要性を強調しました。
大会テーマに基づく全体会議Ⅰでは、冒頭、庭野会長がスピーチ。「他者と共に生きる歓び」とは、他者を知り、真に尊び、合掌・礼拝(らいはい)して共に生きることと述べました。
また、デビッド・ローゼン米国ユダヤ人委員会諸宗教間関係国際部長は、人間は神のイメージでつくられた神聖なるものであり、互いの中に尊厳と価値を見いだすことが大切と言及。マリア・ボーチェ・フォコラーレ運動会長(イタリア)は、「人類を連帯、平和へと導く精神的な強さは人間の心の深みから生まれる。そこに宗教の重要な役割がある」と訴えました。
全体会議Ⅱ以降では大会テーマの実現に向けた具体的な議論が行われました。
『紛争解決・平和構築を通して』と題する全体会議Ⅱでは、グナール・スタルセット・ノルウェー国教会オスロ名誉監督、ディン・シャムスディーン・ムハマディア会長(インドネシア)が発題。スタルセット師は、「他者と共に生きる歓び」に満ちた世界をつくるため、諸宗教間の対話や協働、教育、人権の擁護などを進める大切さを示しました。
シャムスディーン師は、地球上に孤立した存在はなく互いに依存し合いながら生活していると指摘した上で、紛争解決には双方が利得を享受できるような状況をつくることが重要と述べました。
席上、WCRP国際委による「宗教指導者と共同体のための核軍縮に関する実践情報ガイド」の発刊が報告されました。これに関し、杉谷義純・天台宗宗機顧問(WCRP国際軍縮安全常設委員長、同日本委理事長)が、核廃絶に向けた宗教者の役割について見解を述べました。
◆大会宣言文を採択
全体会議Ⅲのテーマは『正しく調和のとれた社会を通して』。ジョン・オナイエケン・ナイジェリア・アブジャ教区大司教、オラフ・フィクセ・トゥヴェイト・WCC(世界教会協議会)総幹事が発題を行いました。
オナイエケン師は、違いや分断が強調されがちな社会の中で、単に他者を受け入れるだけでなく、相手の持つ善や価値を理解し誠実に触れ合うことが共に生きる歓びにつながるとの認識を示しました。トゥヴェイト師は、中東で続く独裁政権の崩壊に触れ、民主国家の意義を強調。「正義や互いの尊重のないところに真の平和はない」と語りました。
『地球を尊重する人間開発を通して』をテーマにした全体会議Ⅳでは、過度の経済発展は環境破壊や国際的な緊張関係をもたらすこと、自然や資源は人類の共有財産であり、将来世代を考えて利用する必要性があるとの意見が述べられました。また、地球とすべての創造物を守るためにも、すべては一つのいのちという宗教の叡智(えいち)を生かす重要性などが示されました。
全体会議を受け、四つの分科会が開かれ、会議の内容を深める議論が展開されました。
さらに、国連機関と連携を深めるための特別セッションや、宗教別会合、地域別会合、国際トラスティ会合などが行われました。
大会には北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の代表団が初参加。韓国の代表団と共に朝鮮半島の統一に向けた宗教者の協働を表明しました。また、シリアの代表が同国の紛争和解と、誘拐された二人の正教会大主教の解放を訴えました。
閉会式では、大会宣言文の草案が読み上げられ、満場一致で採択されました。宣言文は、宗教者として「他者」に対する敵意という平和への脅威に立ち向かい、「他者と共に生きる歓び」を分かち合うために積極的な行動を取ることを表明しています。
◆庭野会長、WCRP国際名誉会長に選任
光祥次代会長が同国際共同会長、共同議長に
会期中、役員選考委員会を受けた正式代表者会議(ビジネス・ミーティング)で、これまでWCRP国際共同会長を務めていた庭野日鑛会長が同国際名誉会長に選任されました。また、庭野光祥次代会長が、新たに同国際共同会長(管理委員)に就きました。
光祥次代会長は閉会式後の新管理委員会で、執行委員、さらに4人の共同議長のうちの1人にも選ばれました。共同議長には、ナイジェリア・アブジャ教区大司教のジョン・オナイエケン師、再開発・指導のための国際センター会長のアブドッラー・イビン・バヤー師(モーリタニア/サウジアラビア)、インド・シャンティアシュラム会長のビヌ・アラム師が名を連ねています。
国際役員は、地域、宗教などを考慮して検討され、名誉会長には30人、共同会長には50人が就任。日本からはこのほか、半田孝淳・天台座主が同国際名誉会長に、田中恆清・神社本庁総長(石清水八幡宮宮司)が同国際共同会長(管理委員)に、それぞれ選任されました。国際委事務総長には、ウィリアム・ベンドレイ氏が再任されました。
◆庭野会長 全体会議での発題・スピーチ(要旨)
今年私は、大変興味深いニュースに出合いました。皆さまもご承知でしょうが、36年前、アメリカのNASAによって打ち上げられた探査機ボイジャー1号が、ついに太陽系の外に出たということであります。
そのボイジャーが、木星、土星、天王星などの惑星探査を終え、太陽系を去ろうとする時、64枚の写真を送ってきたということです。そこには、65億キロもの彼方から見た地球が映っておりました。
NASAの研究官は、その写真を見て、しみじみこう語ったそうです。
「諸君、この写真をよく見てほしい。この針の先ほどの小さな点の中に諸君はいるのだ。諸君の家族も、かわいがっているペットも。さらに、諸君と戦おうとしている敵も、この中にいるのだ。すべてが、この小さな点の中にいることを忘れないでほしい。しかし、よく見てほしい。この小さな点の周りには、暗黒の空間があるだけで、もし、この小さな点、つまり地球に一大事が起こったとしても、どこからも救援に来てくれる気配は、まったくないということを!」
私には、このNASAの研究官の言葉が、神の声、仏の声にも似て聞こえました。
言うまでもなく人間は、地球という惑星でしか生存することはできません。地球の内側を回る金星は、太陽との距離が近く、灼熱(しゃくねつ)の星です。地球の外側を回る火星にも、生物はいないようです。太陽と地球の絶妙な距離によって、ほどよい光と熱を受け、豊かな水が保たれています。
その地球に、いま私どもは、人間として生を享(う)け、天地万物に支えられ、生かされております。それは、まさに不思議、あるいは神秘、奇跡という言葉でしか表現できないことです。このことを自覚する時、自分だけでなく、他の一切の存在も等しく尊いことに改めて気づかされるのであります。
ボイジャーが送ってきた写真は、地球上の生きとし生けるものが、「宇宙船地球号」に同乗する運命共同体であり、皆が「家族」「兄弟姉妹」であることを強く訴えかけているように思えます。
この地球上には、国も、民族も、文化も違うさまざまな人々が暮らしています。そうした個々の相違点は、しばしばマイナス要因と受け取られます。しかし私は、「違いの中から豊かさが生まれる」と信じております。
私どもは、自分と異なる存在と出会うことで、それぞれの特長を学び、向上し合うことができます。他を知ることを通して、自らを顧みることができます。共通点を見出(みいだ)し、協力し合うこともできるのであります。
日本の曹洞宗の開祖である道元禅師が、こんな短歌を詠んでいます。
「春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて すずしかりけり」
春夏秋冬という違いはあっても、おのおのが他と比べようのない素晴らしさ、絶対の様子をあらわしているという意味合いであります。
この会場におられる諸宗教の代表は、皆尊い信仰に生きておられる方ばかりです。それぞれの国や民族にも、貴重な伝統や文化が根づいています。個々の人間にも、かけがえのない独自の人生があります。人間だけでなく、自然界のすべてに創造活動が展開され、地球の調和が保たれています。
「Welcoming the Other(ウェルカミング・ジ・アザー)」とは、そうした他者を知り、真に尊び、合掌・礼拝して、共に生きることに他なりません。
最古の仏典の一つと言われるスッタニパータに、次のような一節がございます。
「あたかも母が自分の一人息子を命にかえても守り抜くように、一切のものに対しても同じように、限りない慈しみの心をおこさなければならない」
こうした精神は、各宗教が共通して教えていることでありましょう。
そしてこのことを、宗教指導者のみならず、信者一人ひとりが、身近な隣人との出会いの中で実践して初めて、争いのない、平和な世界が、一歩一歩現実のものになると申せます。
今回の大会は、次回大会までの行動指針を見出す重要な意味を持っております。今日から3日間の議論が実りあるものになることを心から念願し、私の発題と致します。
(2013.12.6記載)