初めて広島で開催された「日中韓仏教友好交流会議」。三国の"黄金の絆"をより強固にしていくこと、諸宗教対話の大切さが確認されました
『原点回帰――心の平和の構築を願って』をメーンテーマに「第18回日中韓仏教友好交流会議日本大会」(主催・日中韓国際仏教交流協議会)が9月15日、広島国際会議場で開催され、日本、中国、韓国の仏教徒ら約300人が参加しました。広島に原爆が投下されてから70年という節目に合わせ、初めて広島市で実施されました。立正佼成会から同協議会副会長の庭野日鑛会長をはじめ、同協議会常任理事の佐藤益弘西日本教区長、中村憲一郎総務局長が出席しました。
会議の冒頭、同協議会会長の伊藤唯眞浄土門主(総本山知恩院門跡第八十八世)が開会あいさつ。「精神世界を尊重し、心に潜む暴力こそ駆逐しましょう」と呼びかけました。
続いて参加者は、佼成雅楽会の道楽(みちがく)に合わせ、平和記念公園内を練り歩きました。原爆死没者慰霊碑に三国代表者が献花し、原爆供養塔前に移動。各国語で同時に「般若心経」を読誦(どくじゅ)し、原爆犠牲者に慰霊の誠を捧げました。
このあと、国際会議場に場所を移し、「世界平和祈願法要」が営まれ、各国代表者が祈願文を奏上しました。
法要では、被爆者の本会広島教会会員(86)が自らの体験を発表しました。この中で、原爆によって父と姉、妹を失い、生き残った母と共に悲しみに暮れた体験を紹介。「二度と私のような悲しい思いをする人がないように、戦争や核兵器のない、平和な世界が訪れるよう祈ります」と語りました。
午後からは、「三国仏教講演会」が行われ、武覚超・天台宗比叡山求法寺住職(同協議会理事長)、明生・中国佛教協会副会長、泓坡・韓国仏教宗団協議会副会長が基調発言に立ちました。同会議の原点である趙樸初・元中国佛教協会会長の「三国仏教界に“黄金の絆”を構築しよう」との願いをより強固にしていくこと、日々の生活で仏法を実践する大切さなどが確認されました。各発言者の補充発言として、鈴木孝太郎広島教会長はじめ7人が発表しました。
大会の最後には、人々の心に平和が構築されることを願い、日々の祈りを大切にする、利他の精神で積極的に布教に努める、諸宗教対話をより促進するという仏教徒としての三つの実践が示された「共同宣言文」が読み上げられ、各国代表者が宣言文に調印しました。
このあと、広島市内のホテルで歓迎夕食会が行われました。この中で、開会のあいさつに立った庭野会長は、三国の仏教交流の歴史を振り返り、「多くの先達による血のにじむようなご努力によって形づくられたものであり、今日まで相互交流が継続されてきたことを思うと、自ずと深い感謝の念が沸き起こってまいります」とかみしめました。また、大会テーマに触れ、「仏教徒の原点とは、常に釈尊に立ち帰ることであり、その教えの如く物事を見て、判断し、実践することにほかなりません」と述べました。
歓迎夕食会で開会のあいさつを述べる庭野会長。三国仏教徒の絆が一層強まることを祈念しました
大会テーマ『原点回帰――心の平和の構築を願って』に沿った各国代表者による基調発言(要旨)
対話を重ね「黄金の絆」さらに
日中韓国際仏教交流協議会理事長
天台宗比叡山求法寺住職 武覚超
「日中韓仏教友好交流会議」の原点は、中国佛教協会の会長を務めた趙樸初師が示された「黄金の絆」にあります。この絆は三国が釈尊の教えを通して古くから結ばれてきたことを意味し、その源流は二千数百年前にまでさかのぼります。私たち三国仏教徒の固い絆を改めて確認するとともに、「すべての人々の心に平和を構築する」という仏教の共通の役割を果たしていくために、日本を代表して三つの取り組みを提唱します。
一つ目は「仏教徒としての祈りを大切にする」ことです。祈りの原点は真理を悟られた如来への帰依にあります。如来の真の目的は、大慈悲の心ですべての衆生の苦悩を除き、最終的には仏の悟りを得せしめるという「一仏乗」にほかなりません。
また、日本浄土教の元祖・恵心僧都源信和尚は著書『往生要集』の中で、阿弥陀仏の姿を心に思うことで、仏さまは私たちの願いを受け取ってくださると説いています。私たちは改めて真摯(しんし)な姿勢で日々の祈りに向き合っていくことが大切でしょう。
二つ目は「布教についての姿勢を見つめ直すこと」。中国の南岳慧思禅師は、素晴らしい仏の悟りを得ても布教しなければ仏法の種を断つと、厳しく弟子を諭されました。仏祖釈尊は、悟りを開かれた後も衆生救済のために入滅まで法を説き続けられました。これこそ、己を忘れて他を利する「利他」の活動であり、大慈悲心の発露です。この仏の心、「道心」を自らのものとし、人々のため、社会のため、ひいては世界のために仏の法を説き示していかなければなりません。
三つ目は「諸宗教対話のさらなる実践」です。真の世界平和実現のために、私たち仏教徒が異なる宗教といかに向き合っていくかも大きな課題です。これまでにも、ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世の呼びかけで開催された「アッシジ平和祈願の日」や、その精神を引き継いだ「比叡山宗教サミット世界平和祈りの集い」など、宗教対話が進められてきました。その経験を踏まえ、今後さらに宗教宗派の垣根を超えて互いに対話を促進し、相互理解や協力を推し進め、共に平和を祈ることが大切であると考えます。
心の浄化こそ人類への処方箋
中国佛教協会副会長
中国側首席代表 明生
「衆生平等」「自他不二」という平和理念は、ブッダが仏教を説いた根本目的であり、世間を教化する重要な思想であります。この平和思想を実践し広めていくことは、中韓日三国仏教界の兄弟である私たちの共通した心の声であり、使命でもあります。
今年は第二次世界大戦の終結から70年です。人類は戦争の恐ろしさを知っているからこそ平和を大切にすべきなのに、歴史の記憶が薄れつつあります。争いの歴史が繰り返されるのを防ぐため、平和を擁護する切なる願いを世界に伝えていくことが三国仏教界の責任であると受けとめています。
近代の工業文明の進歩は、物質的な利益の追求と消費を促す欲望を生みました。その欲望を満たすには、資源の占領と利用が不可欠。現在、世界で起きているさまざまな矛盾や衝突は、利益をめぐる複雑な問題がつくり出したものなのです。世界の危機の背景に人類の膨張した欲望、極端な利己主義があるのは明らかです。
地球上には二百あまりの国と地域があり、異なる民族と部族が存在します。しかし、異なった価値観や文化は、それぞれの是非が問われるものではありません。歴史や文化に育まれた民族信仰と文化的特徴こそ、それぞれの民族の精神的支柱だからです。相手を理解し尊重し、包容する態度が理想でしょう。
しかし国際情勢を見ると、狭量なナショナリズムは目に見えない形で存在し、時に暴力や政治的手段を用いて侵略を行おうとします。異なる地域の文化を尊重して初めて紛争を回避でき、平和共存できることを私たちは認識すべきです。
衝突や危機については、仏教が解決方法を示してくださっています。利己主義や狭量なナショナリズムは、貪(とん)・瞋(じん)・癡(ち)の表れです。心の毒を取り除くことで心が浄化され、人類の脅威である利己主義やナショナリズムはおのずと成長する土壌をなくし、衝突や危機が本当に解消されることになります。
心の浄化は、心をかき乱す煩悩を食い止めることです。それは個人でも、国家でも同じです。私たち仏教徒は、心の浄化を方法とする恒久平和のためのビジョンを提唱すべきだと思います。心の平和こそ、人類の平和に通じる処方箋(せん)であると世界の人々に知って頂きたいのです。
八正道の実践は平和への近道
韓国仏教宗団協議会副会長
大韓仏教觀音宗総務院長 泓坡
戦争の原因は貪欲(とんよく)です。貪欲は、時にもっともらしい名分や名ばかりの口実で大勢の人々を苦境に陥れ、命までも犠牲にする結果をもたらしました。貪欲は、貪欲であることが明らかにされれば、大きな犠牲をもたらすことはありません。しかし、貪欲が善良であるかのように、また、必要なことであるかのように偽装されれば、私たちは共に破滅するでしょう。
世界史を振り返ると、戦争はパワーバランスが崩れた時や、その名分が偽装された時に起きました。その十中八九は、力のある者の横暴であり、残りは力を持っているという錯誤により生じました。
過去に誰一人として戦争を望んだ人はいません。現在も戦争を望む人はおりません。にもかかわらず、世界には、戦争の危機に直面している所が多くあります。
どうしてでしょうか。
貪(とん)・瞋(じん)・癡(ち)の三毒を抑えられなかったためです。貪・瞋・癡による戦争は私たちの共業(ぐうごう)の結果です。愚かな考えで指導者を選び、怒りをもって対処し、貪欲によって眼が塞がれてしまったためです。
西洋では共和制となって以降、多くの指導者が選ばれました。例えばヒトラーはもっともらしい名分を掲げ、ドイツ国民から支持を受けましたが、戦争を起こし、多くの犠牲者と被害を残し戦争に敗れました。誰がヒトラーを選んだのでしょうか。
約二千年前、東洋の三国にブッダの教えが伝わりました。その後、東洋にも共和制が定着しました。私たちはブッダの教えを実践し、共和制が正しく実現できるようにしなければなりません。
ブッダの教えの核心である八正道(正見・正思・正語・正行・正命・正精進・正念・正定)の実践こそ、平和を構築する近道です。原点回帰――初心に返り、ブッダの教えを実践することは、仏教者、ひいては一般市民が平和の心を構築する近道になるでしょう。
過去を教訓にして、残酷な出来事が繰り返されないようにすることが大事です。今日、韓中日仏教友好交流会議が開かれる広島は、誰一人願わない戦争を防止するために有意義な場であります。三国の友好交流が一層発展し、世界平和と人類の幸せのために、大きな願力を積み上げていきましょう。
記者会見から
「第18回日中韓仏教友好交流会議」の会期中、広島国際会議場で記者会見が開かれました。各国代表者が出席し、今大会の意義や成果を発表しました。
武覚超・日中韓国際仏教交流協議会理事長(天台宗比叡山求法寺住職)は、「三国の仏教徒が同時に『般若心経』を唱え、戦争犠牲者に慰霊の誠を捧げたのは大会史上初で、とても意義深いこと。今大会の『共同宣言文』で、諸宗教対話の実践の大切さが確認されたことにも通じます。仏教には『怨(うら)みをもって怨みに報ぜば怨みやまず 徳をもって怨みに報ぜば怨みすなわち尽く』と説かれています。これは仏の大慈悲であり、この精神で平和実現のためにそれぞれの場所でキリスト教、イスラームといった他の宗教と対話していくことが非常に重要であると受けとめています」と今大会の成果をかみしめました。
また、初めて広島を訪れた中国佛教協会の明生副会長は、「中韓日の仏教徒が共に祈りを捧げたことは、大変感慨深いものがあります。悲惨な過去を二度と繰り返さないよう、われわれが手を携え、東アジアの平和、世界の安寧のために精進していきたい」と語りました。さらに、韓国仏教宗団協議会の月道事務総長は、広島での見聞の感想を「原爆は貪欲(とんよく)によって生み出されたもの」と話した上で、「韓国、中国、日本は運命共同体です。自国の利益のために戦った過去もありますが、世界を導いていくには、三国が共存する方法を考えることが必要。釈尊の教えである慈悲の心を大切にし、築かれてきた〝黄金の絆〟を、今大会を契機により強固にしていきたい」と意気込みを述べました。
(2015年9月24日記載)