教務局社会貢献グループ、青年本部による「一食(いちじき)研修ツアー~日本国内における難民支援」が9月10、11の両日、第二団参会館や埼玉・蕨市民会館などを会場に開催され、会員6人が参加しました。同ツアーは昨年に続き2回目。一行は入国管理局の見学、難民コミュニティーへの訪問などを通じて、立正佼成会一食平和基金と特定非営利活動法人「難民支援協会」(JAR)が合同で進める「国内難民支援事業」について理解を深めました。
◇迫害から逃れ日本へ
一行は10日、第二団参会館でJARのスタッフから難民の定義、国際法による難民の保護や地位、さらに、世界と日本の難民受け入れの現状などについて説明を受けました。このあと、難民を含めた外国人の出入国を管理する東京・港区の東京入国管理局を見学。夜には、難民認定を受けたミャンマー人が経営する新宿区のレストランを訪れ、同国の難民2人と交流しました。
この中で、2007年に「難民認定」を受けたトゥーリー・ナンさん(38)は、軍事政権下で民主化運動に携わり、1991年に単身で日本に逃れてきたと報告。祖国に残した両親に危害が及ぶなどの影響を憂慮し、難民認定の申請に踏み出せなかったと語り、苦しい選択を迫られる難民の心情を説明しました。
翌11日午前、一行はクルド人が多く暮らす埼玉・蕨市を訪問。市民会館でトルコから逃れて難民認定申請中の男性4人(2人は特別在留許可)から話を聞きました。
クルド人はトルコ、シリア、イラン、イラク国境にまたがる山岳地帯に暮らす民族。約3千万人を数え、独自の国家を持たない世界最大の民族と呼ばれます。民族の半数以上が居住するトルコでは、政府がクルド人の存在自体を認めず、長年にわたってクルド語の教育や放送を禁止し、軍事政権による厳しい弾圧が続いてきました。
面談の中で一人の男性は、「クルド語で話をしただけで10年以上、刑務所に入った人もいる」など自国での抑圧の実態を説明。加えて、来日後に難民認定申請を行っても受理されない状態に触れ、「いくら迫害された証拠を日本政府に提出しても認めてもらえない」と時折、語気を強め、目に涙をにじませて苦しい胸の内を明かしました。
◇難民認定基準の現状
トルコから日本に渡った人々の難民申請の総件数は、これまでに600を超えます。しかし、認定を受けた人はいません。こうした日本の難民認定の現状に対し、国際社会から他の先進国に比べて認定率が低く、国籍による偏りも大きいと言われてきました。
JAR支援事業部の伴めぐみ部長は、「不認定の理由の大半は、『供述に不自然な点が多く、信用できない』というものです。だからといって、何が不自然で、なぜ信用できないのかは、具体的に示されない」と制度上の課題を指摘します。認定基準や審議が不明瞭なことが申請者の不安をより大きくしているといいます。
一行はこのあと、同市に隣接する川口市内に住むIさん宅を訪ねました。Iさんは民族や政治的意見を理由に政府から迫害を受け、97年に来日。その後、結婚し、現在、木造2階建ての賃貸住宅に家族3人で暮らしています。これまでに難民認定申請を2回行いましたが認められず、現在は「異議申立」の審査結果を待っている状態です。
Iさんの現状では就労が認められないため、生活費がままならず、家賃の支払いもここ3カ月滞っているといいます。高血圧や糖尿病などの持病を抱えていますが、1年以上の滞在資格がなければ国民健康保険に加入できないため、通院もできないでいます。「ストレスだけがたまります。せめて、国民健康保険に入れるように在留資格がほしい」とIさんは不安な心境を訴えました。
◇JARのクルド人支援
こうした状況を受け、JARは蕨市や川口市に暮らすクルド人で特に生活に困窮する人々に対して、他団体や企業と協力して食料や家庭用品を提供するとともに、食費(単身世帯に月上限3万円)を援助。難民認定申請に必要な書類の作成に加え、祖国での迫害を立証するために弁護士と協力して証拠の収集、入国管理局への同行などに取り組んできました。
また、医療費が払えず通院できない人々のために、「無料低額診療事業」を導入している医療機関との調整を行うなど、最低限の健康維持をサポートしています。同時に、地域社会との交流の場を設け、難民への理解を推し進めています。今年10月下旬には蕨市主催の地域イベントに、クルドの伝統菓子、ネックレスやイヤリングなどの「オヤ」と呼ばれる手工芸品を出品する予定です。
JARの石井宏明常任理事は、「難民の中には家族と引き裂かれたままの人が多くいます。故郷に家族を残して自分だけ逃げてきたという罪悪感を心の痛みとして抱えています。頼るものの少ないそうした人々にとって、『一食運動』を通じた皆さまの支援は大きな心の支えです。自分たちの身近な問題として難民の人々の境遇により一層、関心を持って頂ければと願っております」と語りました。
◆参加者の声
「日本では「難民認定」や「在留資格」を得ることが難しく、多くの難民が法的支援を望んでいることを知りました。支援の難しさを感じる一方、献身的に援助されている難民支援協会の活動の重要性を学ぶことができました。支援を受ける人々の立場や心情に思いを寄せていく大切さも改めて気づかせて頂きました。運動の精神を胸に刻んでいきたいと思います」(女性・59歳)
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「海外から逃れてきた人々が日本で苦しい生活を送っている状況を目の当たりにし、心が痛みました。彼らの困窮する現状に関心を持つ人が増えていくことで、国の対応は少しずつ変わると思います。「一食運動」により私にも役に立てることがあると分かりました。一人でも多くの人に難民の実情を伝え、「一食運動」の輪を広げていきたいと考えています」(女性・30歳)
(2010.10.1記載)