「代理出産」についてパネリストがそれぞれ見解を発表。「いのちの始まり」をめぐって議論が交わされた
『「代理出産」の問題点を考える-生殖補助医療といのちの尊厳-』をテーマに日宗連(日本宗教連盟)による「第5回宗教と生命倫理シンポジウム」が2月25日、東京・渋谷区の國學院大學で開催されました。日宗連に協賛する5団体(教派神道連合会、全日本仏教会、日本キリスト教連合会、神社本庁、新日本宗教団体連合会)などから約200人が参加。立正佼成会から中央学術研究所の藤田浩一郎次長らが出席しました。
1983年、日本で初めて体外受精による新生児が誕生しました。その後、医療技術が進み、現在、日本の新生児の約2%が体外受精によって生まれています。世界的にもさまざまな生殖補助医療の技術が開発され、第三者の女性に出産を託す代理出産が可能となりました。日本では原則禁止としていますが、代理出産に関する法整備はなされていません。日宗連では、急速に進む生殖補助医療が不妊治療の問題にとどまらず、「人のいのちの始まりと終わり」に多くの問題を投げかけているとして、今回のシンポジウムを開催しました。
当日は、久具宏司・東京大学医学部附属病院講師、今岡達雄・浄土宗総合研究所主任研究員、根津八紘・諏訪マタニティークリニック院長、金子昭・天理大学おやさと研究所教授、柘植あづみ・明治学院大学社会学部教授がパネリストとして出席、島薗進・東京大学大学院人文社会系研究科教授(日宗連理事)がコーディネーターを務めました。
この中で、久具氏は、「代理懐胎」では胎児と母体となる代理母とに「遺伝的共通点」が無いため、通常の妊娠出産よりも母体への医学的リスクが高いことを指摘。リスクを伴う行為を他者に依頼することの妥当性、出生した子供の影響を挙げ、代理出産の制度化に懸念を表しました。また、国内ですでに代理出産が行われている現状を踏まえ、利用対象者の適切な選定について、「代理懐胎の便宜的で安易な利用につながらないためにも、社会全体で検討する必要がある」と訴えました。
一方、生殖補助医療の専門医である根津氏は、「患者さんのための医療」という信念から、「非配偶者間体外受精」による妊娠や「代理出産」を行ってきたと主張。10組に1組の割合で子供ができない夫婦が存在する現状を踏まえ、代理出産とは「相互扶助精神によって成り立つ生殖医療」と説明しました。また、子供は「どのように生まれたか」ではなく「どのように育ったか」が重要であるとし、「生まれてきた子供が安心して幸せに暮らせる世の中にしていく義務が大人たちにある」と述べました。
これを受け、宗教者の立場から発言した金子氏は、不妊の苦しみとは身体的なものではなく、周囲からの圧力や自責感情からくる心の苦しみが大きいのではないかと指摘。宗教の救済はそうした心の面に向かうべきと話しました。その上で、「いのちの尊厳」をめぐる生命倫理観や家族関係論を踏まえ、代理出産の推進に慎重な見解を示しました。
このあと、質疑応答により討議が重ねられました。
(2011.03.04記載)
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