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2001年10月23日 被災地ニューヨークに世界の諸宗教指導者集う

義をともなう平和の推進――諸宗教は応答する』をテーマに「世界の諸宗教指導者による国際シンポジウム」が開催され、世界30カ国からキリスト教、イスラーム、ユダヤ教、仏教、ヒンズー教など諸宗教リーダー約150人が参加しました。WCRP(世界宗教者平和会議)国際執行委員会が主催した同シンポジウムでは、各国政府および政治家・国連機構・宗教者の三者協働の重要性、イスラエル・パレスチナ問題解決への貢献と協力、アフガニスタン難民への人道支援活動の着手などが確認され、「武力行使は課題の根本的な解決手段として不適切」と米英両軍によるアフガン攻撃に対し疑問視する文言を盛り込んだ「宣言文」が発表されました。WCRP日本委員会からは、白柳誠一理事長(カトリック)、杉谷義純事務総長(天台宗)、立正佼成会からは庭野日鑛会長(WCRP国際委員会会長)、酒井教雄理事長(同国際財務委員)など日本宗教界からも多数が参加しました。

9月11日の米国同時多発テロ事件を発端にした米英軍によるアフガンのアルカイダ拠点攻撃が続き、戦火拡大が懸念されています。テロ発生の根源的な問題として焦点が当てられているイスラエル・パレスチナ問題は、イスラエル観光相の暗殺事件などによって緊迫状態が続き、世界に暗い影を落としています。こうした不安定要素を背景に国際社会では文明・宗教間の衝突への危機を訴える声が高まり、宗教界への注目が集まっています。
一方、急増するアフガン難民への支援のあり方が国際社会の課題としてクローズアップされ、問題は深刻化の様相を深めています。こうしたなか、WCRP執行委員会の緊急の呼び掛けによってシンポジウムは実現。ミレニアム国連プラザホテルを会場に真剣な論議が重ねられ、平和への貢献の道が模索されました。
シンポジウムには、WCRP執行委員会の趣旨に賛同したアメリカ、パキスタン、ノルウェー、イスラーム諸国会議機構の国連大使が、また国連からもテロ対策担当の事務次長が駆けつけコメントし、参加者からの核心を突いた質問などに真摯に応答。問題に係わる国の政界や国連から、シンポジウムへの強い支持と関心が寄せられていることを物語りました。
アメリカのジョン・D・ネグロポンテ国連大使は、「テロは世界貿易センタービルを攻撃したのみならず、世界を攻撃した。正義を追求するわれわれの努力が成功するか否かの答えは人々の心にかかっている。人道を促進し平和を実現するため、あらゆる段階で宗教は基盤となる。テロによって平和の教えであるイスラームを誤解してはならない」と、宗教への強い期待を述べました。
また、フロアーから「テロリスロに対し、どのようなものが正当化できるのか」との武力行使への疑問を受け、「すべての努力は軍事キャンペーン下で行われている。同時にテロリストの輸出国にしないよう、アフガンからアルカイダが取り除かれたあとを考えねばならない。人道的な救済によって人々の復興計画を立てること。特に緊急を要するのは難民への支援だ」と、武力行使の原則とアフガン再建の視点を述べました。
また、参加者からパレスチナ問題解決への意見を求められ、「平和のための青写真はすでにある。さまざまな提案があるが、テロリストの介入によってその進展が拒まれている。イスラエルとパレスチナ双方の交渉の中核となるものを強固にすることが第一。そのために宗教リーダーの支援が必要だ」と述べました。
さらにパキスタンからの参加者が自国の困難な立場を説明したあと「近い将来、国連軍をアフガンに送る計画はあるのか」を質問。これに答え同事務次長はパキスタンとアフガンの人々の歴史的な苦渋を踏まえ、「もし国連軍が入っても、イスラム教徒の人々はこれを本当に受け入れられるのだろうか」と、冷静で客観的な判断が不可欠との考えを示しました。
ノルウェー国連大使のウェッガー・クリスチャン・ストラムメン氏は、国連安保理事会開催中の寸暇を縫って参加しコメント。敬虔なキリスト者でもある氏は、「宗教者は市民暴力(テロリズム)を抑制する力を持っていると信じる。なぜならば宗教者は倫理的・道徳的信念をもった人々のネットワークを構築できる力を持っている。対話を通じて強力な連帯のできるのが宗教者である。その働きこそが市民暴力の抑制を可能にする」と、対話を基にした国際倫理のネットワークづくりという、宗教者の平和貢献への具体的で新たな活動を提案しました。
また、紛争解決にあたり政治の限界がないか、宗教者の参画を含めて考え直すべきではないかとの質問に答え、「宗教指導者が平和外交に組み入れられるのは当然である。政治だけのレベルでは限界がある。政治と宗教の協働、統合された活動の創造が必要だ」と、政治と宗教の協力が平和戦略に不可欠であるとの認識を明示しました。
会期中には中東問題解決への対話も盛り込まれました。席上、実際に和平交渉に携わる運動家の考えが披露され、「平和実践に直結するシンポジウム」の色合いを強く印象付けました。
このなかで米国イスラーム会の長老シェイク・ムハマド・カバニ師は、「和解はエルサレムにおいても行われなければならない。双方の話し合いによって、エルサレムを神の地にしなければいけない。それが政治リーダーに求められている交渉だ」と、対話による和解を強調しました。また、フロアーからの質問に答え、「エルサレムをオープンな町にするにはキリスト教徒もユダヤ教徒も、そして、イスラームもそれぞれに団結し、支援し協力しなければならない。アラファト議長ムスリムの団結がなければ何もできない」と、平和交渉の前提として幅広い合意と団結が不可欠であることを述べました。
一方、イスラエルから参加のセファラディー主席ラビ代理のメナヘム・フルーマン師も、平和への可能性を次のように熱く語りました。
「私はアラファト議長と会い、エルサレムの将来像について話し、精神的レベルで合意している。そのとき私は、『エルサレムは将来、世界の都市になり得る』と言った。すると、アラファト首相は『世界の都市になる、世界の都市になる』と繰り返し言った。私たちはそれを信じている。そして、これは私たちだけのものではなくなった。ベンドレイ事務総長と会い、私はこのイスラエル・パレスチナ問題がWCRPの組織とともに実践的になると思った。このシンポジウムが、エルサレムの将来に向かう、そのプロセスの第一歩になった。神の助けを得て、われわれの問題は必ず解決できると思った」
シンポジウムの討議を踏まえ、主催のWCRP執行委員会が発表した「宣言文」では、「諸宗教伝統のなかには、無実の人々の殺戮を許すものは一切存在しない」と、人々のイスラームへの誤解を正し、さらに宗教間衝突の危険性を一蹴しました。また、「テロリストに対する裁きは、更なる無実の命を失う結果を招いてはならない」「武力の行使はわれわれが直面する課題を根本的に解決する手段として十分ではない」と、米英両国によるアフガンへの武力行使に対し、疑問を投げかけました。
また、「テロリズムに関する国連特別総会の開催」「テロリズムに対抗するための包括的国際条約の締結」「国際裁判所の機能強化」などの要請とともに、国連とのパートナーシップの強化をうたいました。

シンポジウム 現地の様子

ニューヨークでの「世界の諸宗教指導者による国際シンポジウム」の会期中には、米国宗教者平和会議の主催する追悼の夕べ、イスラミック・センターでの祈りと宗教儀式の集いが行われたほか、WCRP執行委員会が、ルイーズ・フレッシェット国連副事務総長にアフガニスタン難民支援のため50万ドルを贈呈しました。ニューヨークでのハイライトを紹介します。

【世界貿易センター跡近くのチャペルで】
シンポジウム終了後の24日夕方、参加者は聖ピーターズ・ローマン・カトリック教会へ移動、米国宗教者平和会議の主催する追悼の夕べに参列しました。
教会施設はテロ被災地・世界貿易センタービルを100数十メートル先に臨む。偉容を誇ったビルの面影もなく、瓦礫をわたる風がかすかな煙と異臭を乗せ、3メートルもの防壁を超え吹いてきます。参加者はグラウンド・ゼロに向かいそれぞれに合掌し、あるいは祈りの言葉を口にしました。
チャペル内の式典では、キリスト教、ユダヤ教、仏教、神道などの正装を身にまとった11人の代表が献灯。祭壇までを厳かに進み、犠牲となった人々と、いまなお行方不明のまま瓦礫の下に眠る4000余のみ霊に心安かれと祈り、平和の使徒として使わされた人々への感謝の誠を捧げました。
米国ギリシャ正教のデメトリウス大主教が歓迎の言葉と祈り。「かつての美しかったビルはいま、数千の人々の墓地となりつつある。ここへ移動する道すがら、私は人間にとってもっとも大切ないのちの尊厳と協力することについて、さまざまに考え直した。われわれは宗教者としてここに集い合ったことで、自分たちの使命を神のみ前であらためて認識したい。9月11日の悲劇を思い出し、共に立ち向かっていかねばなりません」と述べました。
ニューヨーク警察署のラバイ・アルビン・カス上席チャプレンは、テロの事件の意味するものを次のように述べました。
「惨劇の日からわれわれは、肌の色も宗教の違いも関係なく必死で助け合った。このような悲劇が起こるということは、神がこの世にいない証拠だと言う人がいた。しかし、みんなが必死で協力し救助できたのは神の恩恵だった。私はむしろそこに、助けてくれる神の力を感じた。この惨劇は、より真剣に平和と取り組むための神から与えられた試練だったのかもしれないと。亡くなられた人々の死を無駄にしないように、われわれの努力を一つにしていかねばならない。そういう世界ができるよう、努めていかねばならない」
席上、世界の青年に対する取り組みとして、日本からの代表が登壇、「励ましの手紙」の贈呈を行いました。これは、同時多発テロ事件以後、立正佼成会の具体的な取り組みの一つとして全国会員間で行われたもので、小学・中学・高等学校の生徒たちがアメリカの子供たちに贈る英文による癒しのメッセージです。海外からの分も含め、10月15日の第一次締め切りまでに集まった4000余通が壇上に上げられた。
登壇したのは白柳誠一WCRP日本委員会理事長をはじめ、立正佼成会から庭野日鑛会長、国富敬二青年本部長、畠山友利ニューヨーク教会長、大学生代表2名の、合わせて6人。
大学生が「励ましの手紙」の趣旨説明と、一通の手紙を紹介しました。大阪在住の会員からのもので、「私は事件をテレビで知って激しいショックを受けました。こんなことがあっていいのだろうか。私はみなさんの気持ちを思います。我慢できないようなときがあったら、そして、何もやる気が起こらなくなったときは、どうか私の事を思い出してください。日本からいつも平和を祈っています。あなたは一人ではないのです」(概要=原文は英文)との内容が英語で紹介されました。
これを含め4000余の手紙が白柳師と庭野会長から、アメリカユニセフ協会代表のメグ・ガーディナーさんへ手渡されました。メグさんは、「この手紙は被災地で悲しみに遭った子供たちに確実に届けます。これはきっと、子供たちに大きな慰めとなるでしょう。子供たちが連帯してくれたことに感謝します」と述べました。
メグさんの話によると、今回の手紙はニューヨーク市内をはじめ、ボストン、ニュージャージー州の家族をなくした小・中学校の生徒を中心に配られます。「住所が書いてあればきっと、子供たちは返事を書くことでしょう。こういう手紙が海外から届くのは、米国のユニセフ経由ではこれが初めて。それだけに、子供たちの笑顔が目に浮かぶよう」と話しました。なお、アメリカ・ユニセフ協会では「励ましの手紙」を今後も継続して受け入れるということです。
【イスラミック・センターで】
23日夕、シンポジウム参加者はニューヨーク市内最大のモスクであるイスラミック・センターを訪問、祈りと宗教儀式の集いをもちました。
諸宗教リーダー21人が前座に着くなか、センター所長のオマラブ・ナモス師は、「われわれに最も必要なのは正義である。悪の心をもった人々に正義の心をもって接するのは、イスラームの根本義である。いま、政治家は宗教者からのたくさんのアドバイスを必要としている。われわれはその信仰心に基づき、問題を平和裏に解決するためあらゆる力を結集していかねばならない」と歓迎の意を述べました。
カンボジア上座仏教大僧正のマハ・ゴーサナンダ師は、「宗教者同士の共生が必要である。すべての宗教は平和と正義を教えるがゆえに、それは可能である」と共通の基盤に立つ連帯の必要性を語りました。
式典を終え帰路に就く参加者と友情の抱擁を交わしながら、オマラブ・ナモス所長は、「ここに来てくれたことに、私はいのちの底から感謝する。われわれを非難する人々がいたらこう言おう。今日のこの集いこそが平和の証であることを。胸を張って教えよう」と、喜びと感激の気持ちをあらわに伝えました。
【アフガン難民緊急支援】
現在、アフガニスタン周辺では同国からの避難民が500万人を数えると言われています。さらに、米英軍の空爆等で、難民の総数は750万にふくれるだろうと予測されます。アナン国連事務総長は9月末、難民救援活動のため、今後5億8400万ドル(約694億円)が必要として、各国からの支援を呼びかけています。
同時多発テロ事件発生ののち、立正佼成会は具体的な取り組みの一つとして「多発テロ関連被災者救援募金」に着手。新たに銀行口座を開設し、10月19日現在、全国会員を中心にした献金と、一部、街頭募金での集計、約5560万円をWCRP国際委員会に贈りました。
立正佼成会では、募金活動を今後も年内継続しますが、同時にWCRP国際委員会側では同共同体に参加する世界の諸宗教教団にも、これになんらかの形で合流・追随することを促しています。
WCRP国際委員会は今後の諸宗教の参加を含め、第一期寄金を100万ドル余と見込みました。集められた寄金は、ニューヨーク市を通じてテロ被災者に贈られるのをはじめ、国連を通じ、アフガニスタン難民への人道支援として贈呈されます。
アナン事務総長の代理として寄金を受け取ったルイーズ副事務総長は、「WCRPは平和への掛け橋としての素晴らしい活動を展開している重要な組織である。早速、アナン事務総長に伝える。アフガニスタンで苦しい状況に置かれている人々にとって、皆さんの貢献にはどれほど勇気付けられるか計り知れない。心から感謝申し上げる」と、謝意を述べました。
なお、シンポジウム終了後の翌25日、執行委員の一人、ノルウェー国教会主席司教のガンナー・スタルセット師は国連本部にアナン事務総長を訪問、今回のシンポジウムの成果を報告しました。事務総長は「宣言文」を熟読し、WCRPシンポジウムに強い関心を示しました。また、アフガニスタンへの人道支援について感謝の意を伝えました。

(2001.11.01 記載)