会議では、被災地で復旧・復興に取り組む地元の宗教者らが体験に基づく現地の課題などを報告。今後の宗教者の役割や具体的な支援策が話し合われた
WCRP(世界宗教者平和会議)日本委員会は5月22、23の両日、宮城・仙台市の仙台国際センターで「復興に向けた宗教者円卓会議~今後のWCRPによる取り組みのあり方を考える~」(協賛・宮城県宗教法人連絡協議会)を開催しました。同委員会役員や被災地で支援活動を展開する団体の代表者など62人が参加。立正佼成会からは同委員会理事の国富敬二東京教区長、同特別会員の根本昌廣外務部長、中村憲一郎時務部長などが出席しました。
同会議は、被災地で復旧・復興に取り組む地元の宗教者や医師、大学関係者、NPO(特定非営利活動法人)団体の代表などを招き、現地の課題を共有し、宗教者の果たす役割や今後の具体的な支援策を模索するもの。『「東日本大震災をけっして忘れない」ための祈りと行動』をテーマにした「WCRP震災復興キャンペーン2012」の一環として行われました。
当日は、杉谷義純・同委員会理事長(天台宗宗機顧問)、齊藤軍記・宮城県宗教法人連絡協議会会長(天理教多賀城分教会長)のあいさつに続き、同委員会の震災タスクフォース(特別事業部門)責任者を務める本会の根本外務部長が『東日本大震災の課題とWCRP』、同平和研究所の眞田芳憲所長が『共有される安全保障』と題し、それぞれ基調発題を行いました。
『震災と精神的ケア』をテーマにしたセッション1では、医師で医療社団法人爽秋会理事長の岡部健氏が発題。被災によって病院スタッフの心が揺らいだとき、僧侶の読経によって心が落ち着いた体験を報告し、宗教儀礼には被災者に安らぎをもたらす力があることを伝えました。
また、「被災者は医師には言えない深い心の訴えを宗教者には打ち明けられる」と話し、医療従事者と宗教者が手を携えて心のケアに取り組む大切さを述べました。その上で、宗教者が共に行動することで市民に安心感を与えると語り、「宗教にどう公共性を持たせるかが課題」と参加者に投げかけました。
これを受け、会場からは宗教者による傾聴ボランティアの体験などが語られたほか、「宗教による心のケアには長い歴史がある。自信を持って取り組んでほしい」との声も上がりました。
セッション2では、『地域コミュニティの再構築』をテーマに、東北大学教授の鈴木岩弓氏が発題。神社や寺院などが地域コミュニティと密接にかかわってきた歴史を紹介し、被災地域の「we-feeling」(絆)を補強、再生する上で、宗教施設や民俗芸能が役立つとの見解を示しました。さらに、遺族に対する心のケアも宗教者ならではの役割であると語り、布教を目的とせず、宗教団体の枠を超えた「宗教的ケア」を行う重要性を強調。現在、東北大学で試行する宗教者が被災者に寄り添う「臨床宗教師」(仮称)の取り組みを紹介しました。
参加者からは、寺院が檀家(だんか)と協力し、震災孤児を里子として育てる取り組みが地域復興の希望になっている事例が発表され、「人々の心に灯(あか)りをともすのが宗教者の役割」であることが確認されました。
声なき声に耳傾け
また、セッション3では『社会的弱者とよばれる方々への支援』と題し、ふくしま連携復興センター理事の江川和弥氏と、遠野まごころネット代表の多田一彦氏が発題を行いました。
福島県で被災者支援にあたる江川氏は、県民の15万人が避難生活を送る現状などを報告したあと、「弱者」の定義に言及。50代の男性が仮設住宅で孤独死した事例を紹介しながら、高齢者や子供だけでなく、あらゆる人々が弱者になり得る可能性を指摘しました。
さらに、クッキー作りや草履作りなど、同センターが取り組む自立支援のプロジェクトを紹介。被災者が共に作業を行う中で生き生きとする姿を伝え、「人の尊厳がいかに保たれるかが弱者支援のカギ」と語り、長期的な支援のあり方を提案しました。
次いで、多田氏は、震災当初、仮設住宅に入居することが“自立”とみなされた状況を批判し、「衣・食・住・業が整い、被災者自身に余裕が生まれて初めて自立できる」と強調。被災者の声なき声を聞き、見えないものを探すことで弱者を見いだせると説明し、「相手の話を聞き切るところに支援のヒントがある」と述べました。
両氏の発言を受けた自由討議では、被災地で活動する宗教者が、過去の地域での活動の積み重ねが宗教者による迅速な支援活動につながったことを報告。日ごろから社会的役割を担う重要性が話し合われました。
三つのセッションを受け、参加者は、人間の根底にある思いやりや優しさ、慈悲の心を見つめ直し、分かち合いの心で被災者と共に生きる大切さを確認しました。
2日間の討議を受け、同委員会では今後、震災タスクフォースを中心に具体的な復興支援策を模索していく予定です。
(2012.06.01記載)