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2012年06月29日 東京電力福島第一原発事故を受け、立正佼成会が声明

立正佼成会は6月18日、『真に豊かな社会をめざして――原発を超えて』と題する声明を発表しました。この「声明」は東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、本部の担当部署での議論、理事会の審議を経て作成されたものです。原発事故による福島の人々への被害をはじめ世界への影響に触れながら、原子力によらない真に豊かな社会の実現を訴えました。同時に、原発への依存度を高めてきた一人ひとりの価値観、生活スタイルを見直し、仏教的観点から簡素な生活の中に幸せを見つけていく生き方の転換を呼びかけています。

昨年3月の東日本大震災により福島第一原発は電源を喪失し、1号機から4号機までが爆発しました。放射性物質が飛散し、半径20キロ圏内は警戒区域となり、立ち入りを制限。半径30キロ圏内は計画的避難区域に指定されました。
昨年12月に野田佳彦首相は「冷温停止状態」を維持できているとして「事故収束」を宣言。避難区域指定の見直しが行われてきました。今年6月には政府が福井県の関西電力大飯(おおい)原発3、4号機の再稼働を正式に決定しました。
一方、福島第一原発の事故は今も予断を許さない状況が続いており、さらなる危機への懸念が世界に広がっています。また、多くの市民が放射線の影響を心配しています。日本の原発を取り巻く環境についてもさまざまな意見があります。
本会は被災地への支援に努める一方、福島第一原発の状況を注視しながら、中央学術研究所と外務グループが中心となり、原発に関する議論を開始。その後、理事会での数度の審議を経て、6月18日に今回の「声明」が発表されました。
声明では、日本の原子力発電が国策として推進されてきたことに触れるとともに、経済的恩恵を受ける中で、国民も原発の負の部分に目を背け、その依存度を高めてきたと指摘。今回の甚大な事故を受け、原子力によらない、真に豊かな社会の創設を訴えました。
さらに、真に豊かな社会を築くには、際限なくエネルギー消費を拡大してきた価値観や生活スタイルを各人が見直していくことが最も重要だとし、「少欲知足」による「簡素な生活の中に幸せの価値を見いだす」ことが強調されました。
また、未来世代に対する責任にも言及。よりよい社会を築いていくため、「共生」「自然との調和」「分かち合いの経済」を今後の指針にしていくことを示すとともに、本会がその実現に取り組んでいくことを表明しました。

声明 『真に豊かな社会をめざして――原発を超えて』

東日本大震災によって多くの方々が最愛の人を奪われ、住み慣れた故郷を離れ、苦難の生活を余儀なくされています。立正佼成会は、犠牲となられた方々の御霊(みたま)の安らかなることを祈るとともに、被災地の方々をはじめ、その家族や親類の方々に寄り添い、精神的・物質的支援に努めてきました。被災地の方々は懸命に復興への道を歩まれていますが、その悲嘆と苦悩は、言葉では言い尽くせないほど大きなものがあると思います。

とりわけ、東京電力福島第一原子力発電所事故により、福島では多くの方々が生活や家庭の基盤を失いました。事故発生直後の混乱と不安の中で、それまで地域社会で育まれてきた人と人とのつながりは引き裂かれていきました。胎児や子どもへの放射線の影響を心配しているご家族は数えきれません。多くの母親が今も胸を痛めています。また、今回の事故は近隣諸国をはじめ世界の人々に大きな不安をもたらし、未来世代に計り知れない多大な負担を残しました。

原子力は「未来のエネルギー」と言われ、私たち国民もその恩恵を受けてきました。しかし、ひとたび事故が起きれば、甚大な被害をもたらすことを思い知らされました。経済的な豊かさが人間の幸せの源泉であると信じ、原発の負の部分から目を背けて、その依存度を高めてきた責任は私たち一人ひとりにあります。私たちに問われていることは、原子力発電によらない、真に豊かな社会を可能な限り速やかに築きあげていくことです。そのためには、より安全性の高い再生可能エネルギーの開発と活用に叡智を結集しなければなりません。しかし、一番大切なことは、多くの犠牲の上に際限なくエネルギー消費を拡大してきた価値観や生活スタイルを見直すことです。今こそ、過剰な消費を抑えた「少欲知足(足るを知る)」の心を養い、簡素な生活の中に幸せの価値を見いだす最大の機会であると考えます。

世界は今、文明の転換を迫られています。これまでの経済的・物質的な豊かさを求める生き方を続けていては、限られた地球環境を守り、未来世代によりよい社会を残していくことはできないでしょう。また、貧富の格差が広がる今日の経済や社会のあり方は、人類全体にとって決して幸せなものではありません。私たちの生き方のものさしを「共生」や「自然との調和」、すべての人が安心して暮らせる公正な「分かち合いの経済」などの実現に変えていかなければなりません。

立正佼成会は、すべてのいのちを尊び、慈しみ、自然と人間との共生に基づく心豊かな平和な社会の実現に向け努力してまいります。これこそが今、仏教徒として私たちの果たすべき菩薩行と信じるものであります。
(平成24年6月18日 立正佼成会)

本会の声明発表の経緯と私たちの願い

立正佼成会理事長 渡邊 恭位

東日本大震災では、地震と津波により多くの方が犠牲となられ、その後の福島第一原発の事故などもあり、国民生活への影響は広範囲に及んでいます。改めまして、追悼の意を表しますとともに、お見舞いを申し上げます。
本会といたしましては、地震発生以来、被災地への支援を第一に考え、会員の皆さまと共に活動を展開させて頂いております。一方で、この未曽有ともいえる原発事故に際しては、宗教教団としての社会的責任から基本的な姿勢を示す必要があると判断し、主管・担当部署を中心に取り組み、理事会での審議を経て、このたび声明を発表させて頂く運びとなりました。
今日、日本には54基もの原発が存在しますが、その根幹には、国家、社会の存立を左右するエネルギー問題があります。資源の乏しいこの国で、私たちの生活は、これまで原発に支えられ、その恩恵を受けてきました。原発に依存してきたこと、それは紛れもない事実です。しかし、今回の震災で、ひとたび大事故が起きると、私たちの安全が根本から揺らぐということが分かりました。
私自身、本当に無知だったと反省しているのは、使用済み核燃料、放射性廃棄物の問題です。人間を即座に死の危険にさらす高レベル放射性廃棄物の処理に関しては、現在もその手段が確立されておらず、その管理に要する期間は10万年とも100万年とも言われます。先日、日本学術会議が、現行の地下深くに埋める処分方針では安全性は確保できないとの見解を示したとの報道がありました。実際に、福島第一原発の4号機だけでも1500本以上の使用済み核燃料棒がそのまま残されています。現在の私たちの利便や欲求を充足させるために、後世にわたって子孫に禍根を残すやり方は、倫理的に許されるものではなく、不本意というほかありません。
そのような観点から、声明では、原発への依存を超えて、安全性の高い再生可能エネルギーを開発し、活用していくことを訴えています。それとともに、エネルギー消費を拡大してきた価値観と生活スタイルを見直し、過剰な消費を抑えた「少欲知足」の簡素な生活に幸せを見いだしていくこと、一部の国や人が貧困にあえぐことのない「分かち合いの経済」の実現を提言する内容となっています。
宗教は「真理」「法」「神仏」といった絶対的な価値を大切にし、それにより人の心を豊かにするものです。しかし、現実に私たちは相対的な価値観の渦巻く世界に生きており、そこでは対立や格差が生じます。その現実社会に対して、私たち宗教者には、理想を打ち出し、宗教的な視点から意見を示していく役割があります。専門的な観点からすれば、私たちの見解は理想的に過ぎるとのご指摘もあるかもしれません。しかし、他の宗教者や各界の人々と意見を交わしながら、すべてのいのちが尊重されるよりよい世界、国家、社会を築き上げていくために協力していくという姿勢は、今後も表明し続けていかなくてはならないと考えております。
その理想に一歩でも近づけるためにも、私たちは、これまで進めてきた「一食(いちじき)を捧げる運動」、平和・社会活動、本部でのEMS(環境マネジメントシステム)をはじめとした環境保全へのアプローチ、各種の教育など、自己中心の心ではなく利他心を涵養(かんよう)する取り組みを一層推進しながら、簡素な生活の実現を目指してまいりたい、そのように念願いたしております。

(2012.06.29記載)