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2014年05月16日 第31回庭野平和賞贈呈式 GPIW創設者 ディーナ・メリアム氏 米国 世界各地で緊張緩和、和解促進に尽力


GPIW創設者・メリアム氏の功績を讃(たた)え、庭野名誉会長から賞状、顕彰メダルなどが手渡されました

公益財団法人・庭野平和財団(庭野日鑛名誉会長、庭野浩士理事長)の「第31回庭野平和賞贈呈式」が5月16日、東京・港区の国際文化会館で行われました。受賞者は米国のヒンドゥー教徒でGPIW(女性による世界平和イニシアティブ)の創設者であるディーナ・メリアム氏(63)。同氏は2002年、和解促進や諸問題解決に対する女性宗教指導者の貢献を目指し、GPIWを創設。女性的な価値観や特徴を生かし、世界各地で緊張緩和や和解促進に尽力してきました。当日は、約150人の宗教者、識者らが見守る中、庭野名誉会長から正賞として賞状、副賞として顕彰メダル、賞金2千万円(目録)が贈呈されました。

メリアム氏は1951年、米国・ニューヨーク市で生まれました。ユダヤ教の著名な指導者だった大伯父の影響を受け、青少年期からユダヤ教徒と交流を重ねました。この体験を機に宗教的な世界に興味を持ち、インド文化やヨガなどに引かれてヒンドゥー教徒となりました。
バーナード大学を卒業後、コロンビア大学で修士号を取得。90年代後半から諸宗教間対話・協力活動を始めました。2000年、ニューヨークの国連本部で開催された「宗教者・精神的指導者による『ミレニアム世界平和サミット』」では副議長を務めました。
こうした活動を通してメリアム氏は、世界の諸問題解決には女性の役割が重要であるにもかかわらず、国際的な諸宗教の活動で女性宗教指導者に正当な評価と役割が与えられていない実情を懸念。女性の包容力や優しさ、協調性、忍耐力などの特徴を生かし、紛争地域で癒やしを提供するとともに、和解促進を目指し、2002年にGPIW(本部・ニューヨーク)を設立しました。以来、諸宗教間の活動に参画し、宗教や文化の違い、性別などあらゆる面でバランスを保つ大切さを訴えてきました。
また、国連との協働による「若手リーダー育成プログラム」の実施、イスラエル・パレスチナ、アフガニスタン、カンボジアなど紛争地域での対話活動の組織化といった取り組みを展開。近年では、環境保全活動にも力を注ぎます。現在、同団体には女性を中心に世界の約4千人が所属しています。
メリアム氏はGPIWの議長として活躍するほか、ハーバード大学世界宗教研究センターや国際宗教外交センターなどの理事、ブータンGNHセンターの顧問委員なども務めています。
贈呈式では、庭野平和賞委員会=「委員一覧」参照=のシェイク・イブラヒム・モグラ委員長=英国ムスリム評議会副事務総長=により選考経過が報告されたあと、庭野名誉会長から賞状と顕彰メダル、賞金(目録)がメリアム氏に手渡されました。
続いて、庭野名誉会長があいさつ。下村博文文部科学大臣(青柳正規文部科学省文化庁長官代読)、田中恆清・日宗連(日本宗教連盟)理事長が祝辞を述べました。このあと、メリアム氏が記念講演を行いました。

新たな平和世界を創造するために違いや偏見を超えた調和と協働を GPⅠW創設者 ディーナ・メリアム

2000年に開催された「宗教者・精神的指導者による『ミレニアム世界平和サミット』」の準備を進めていた時のことです。ある男性宗教者に、「サミットに参加してもらう女性宗教指導者を探すのに苦労している」と話しました。すると、「なぜ女性宗教指導者が必要なのか」と厳しい口調で反発されました。
私たちは今、ジェンダー(社会的文化的性差)の偏見を乗り越えて進化することが求められています。アブラハムの宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラーム)は、神の女性的側面を見失っていますが、実は伝統の中に存在しています。一方、東洋の宗教伝統にはインド神話のターラーやヒンドゥー教の女神ドゥルガーなど女性的側面が失われずに存在しています。
GPIW(女性による世界平和イニシアティブ)の活動は当初、女性宗教指導者に発言の場を提供することでしたが、08年以降は女性神のイメージを喚起すること、「原初の創造する力」に関する理解にジェンダーバランスを取り込むことに重点を置くようになりました。この創造の力が「父なる神」という男性形で理解される限り、ジェンダーの偏見はなくなりません。
ジェンダーだけでなく、東洋と西洋のバランスをとることも、活動の一つです。
諸宗教間の協働はこれまで、主にアブラハムの宗教伝統内だけに限られ、深刻な緊張が存在してきたその世界の中で、宗教間対話が必要とされてきました。しかし、この対話から、世界の半分の宗教が除外されてきたのです。
ヒンドゥー教徒や仏教徒など「法」に依る東洋の宗教伝統や女性から与えられるもの、それらは現代社会が直面する複合的な危機の解決に有用な英知であるにもかかわらず、そのすべてがこれまで無視されてきました。東洋の宗教からもアブラハムの宗教と同じ数の人々が平等な立場で対話のテーブルに着くことができるまでは、宗教間の調和が実現したとは言えません。
仏教は今日、米国内で最も急速に拡大している宗教です。「縁起」や「正念」など仏教教義の多くが社会の主流概念となり、教育や医療などの社会制度に組み込まれつつあります。多くのキリスト教の聖職者が仏教の瞑想(めいそう)を行うだけでなく、指導者でもあります。瞑想の実践が広がることで諸宗教の結びつきは今まで以上に密接になり、宗教には優劣がなく、すべての宗教はそれぞれ正しいと考える人々が増えています。どの宗教が正しいかという問題ではなく、どの宗教が一人ひとりに何を語りかけるかが大切なのです。
生物の多様性と同様に、宗教の多様性も大切にするべきです。ただ一つの道が唯一の道だと思い違いをしてはいけません。人類史上では、一つの宗教や文化を他に押しつけることが多々ありました。平和な世界を創造するため、私たちの社会はこうしたことから脱却しなければなりません。
諸宗教間の協働は今、広がりつつあります。一方で、世界にはまだ、自分たちの宗教以外に触れたことのない人々がいます。そうした人たちに尊敬が及び、暴力のない共生社会をつくる能力を有するためには、「他者」を学び、「他者」を少し体験することです。
諸宗教間の活動を始めた当初、キーワードは「寛容」でした。私たちは「寛容」から「尊敬」、そして「相互理解」へと進んできました。さらに深く進みたいとの願いの中で登場した言葉は「ワンネス」と「ユニティー」、すなわち「多様な表現を持つ一つの真理」です。長年、諸宗教間の協働に取り組んできた人々にとって、「一致」こそが活動の拠点です。社会を変え、地球が直面する問題に取り組むため、蓄積されてきた精神的英知と実践をどうすれば活用できるか。そこを焦点に据えなければなりません。前進する英知を与えてくれるのは、精神的な成長です。私たちが一致団結して努力すれば、対処不可能な問題はないのです。(文責在記者)

庭野名誉会長あいさつ 要旨 現代の諸課題解決のための智慧 共生への道を歩む氏を心から称賛

メリアム氏の活動は、大変多岐にわたります。私は、そうしたさまざまな取り組みには、一つのキーワードがあると受けとめております。それは、「バランス」ということであります。
メリアム氏は二〇〇二年、「GPIW」を創設されています。女性の宗教指導者による国際的な連携組織であります。男性中心の風潮が根強い中、メリアム氏は、地球規模の諸課題の解決に向け、女性の宗教的・精神的な特性を活かし、具体化していくことを目指してこられました。諸宗教間の対話・協力をはじめ、グローバルな活動の場では、常に男性と女性の「バランス」が考慮されなければならないということであります。
このような歩みを始める大きなきっかけとなったのが、二〇〇〇年にニューヨークの国連本部で開催された「宗教者・精神的指導者による『ミレニアム世界平和サミット』」であったと、メリアム氏は述懐しておられます。このサミットに運営責任者の一人として関わったメリアム氏は、女性宗教指導者の活躍の場が少ないことに衝撃を受けたそうです。それが「GPIW」の創設に結びついたのであります。
実は、そのサミットには、私自身も参加しておりました。セッションで議長も務めました。先日、当時の記念写真を目にする機会がありました。その頃、国連事務総長を務められていたコフィ・アナン氏を中心に、五十人ほどの諸宗教代表が写っています。そこにメリアム氏もいらっしゃいました。私も一員として加わっておりました。しかし、その中で女性は、メリアム氏を含めて、五人ほどでありました。
世の中は、男性を中心にして動いているという印象が、一般的には強いと思います。しかし、よく考えてみますと、それは思い違いかもしれません。地域社会や家庭という人間生活の最も大事な場を、日々支えているのは女性であります。特に、いのちを産み、育てていく上で、女性は、決定的に重要な役割を果たしております。誰にも母がおり、その絶大な影響を受けて、個々の人格が形成され、いま一人ひとりが社会生活を営んでいるのであります。
女性は、優しさ、温かさ、思いやり、協調性、分かち合いなどの精神的な要素が豊かであります。そうした宗教的な精神にも通じる女性の特長こそが、現代の社会に最も求められているものであり、真に人を育て、平和な世界を築いていく原点と申せましょう。
またメリアム氏は、西洋と東洋の宗教的な「バランス」をととのえる努力も続けておられます。諸宗教による会議などの場で、西洋の宗教者と、東洋の宗教者の参加者数、発言の機会を同等にするといった配慮を具体化されています。
宗教のあり方について、ある方は、「主張すべきことではなく、帰依すべきもの」とおっしゃっています。特に東洋の宗教伝統を持った方々は、深い宗教的確信があっても、それを外に向かって強く主張するという態度をとられない傾向が見られます。
しかし、東洋の宗教伝統には、「多用性を認める寛容さ」「個人ではなく、人間と人間、個と全体の関わりを重視する精神」「人間を自然の一部ととらえ、自然との共生を目指す生き方」「際限なく大きくなる欲望の制限」など、現代の諸課題の解決につながる数々の智慧(ちえ)があります。
さらにメリアム氏は、途上国と先進国の経済的な「バランス」、自然環境と人間の経済活動との「バランス」などにも目を向け、それらを改善する取り組みに卓越したリーダーシップを発揮しておられます。
「バランス」をととのえるとは、言い換えるならば、一方に偏ることなく、共に生きる道を見いだすということでありましょう。現実の世界で、このことを実現するには、大変な困難が伴うに違いありません。そうした道を、地道に、情熱を持って歩み続けてこられたメリアム氏を、心から称賛し、深く敬意を表するものであります。(文責在記者)

(2014.5.23記載)