諮問委員や支援先のNGO代表者らが一堂に会し、南アジア地域の貧困削減に向けて議論を重ねました
庭野平和財団による「南アジアプログラム終了シンポジウム」が2月2日から5日まで、ネパール・ドゥリケル市内のホテルで開催されました。同プログラムは、南アジア地域の貧困削減に向け、現地のNGO(非政府機関)支援を目的に、立正佼成会一食(いちじき)平和基金からの委託事業として2004年から10年間実施されました。シンポジウムはそれを総括し、同地域の貧困削減に向けた意見交換を目的とした。同プログラムの諮問委員や支援先団体の代表者、同プログラムのアドバイザーである大橋正明聖心女子大学教授ら18人が参加、本会から那須弘友紀一食平和基金運営委員会事務局長(社会貢献グループ次長)が出席しました。
持続可能な開発の鍵は「尊厳の自覚」
分科会では南アジア地域での人権擁護や食の安全などについて活発な意見が交わされました
インド半島を中心とする南アジアには、世界の人口の約20%にあたる約17億人が暮らしています。そのうち80%以上が1日2ドル以下で生活する貧困状態にあり、世界で最も貧困者が多い地域といわれています。
同プログラムではメーンテーマ『貧困の削減』に基づき、1プロジェクト3年を目安にインド、バングラデシュ、スリランカの3カ国、29のNGOを通じて支援事業が行われました。支援総額は2億2363万496円に上ります。
きめこまやかな支援活動を行うため、現地の社会状況やNGO活動に精通する地元の識者による諮問委員会を各国に設置。その国の状況を踏まえた年間テーマの設定、支援団体の選定などに意見が反映されました。
同プログラムでは物資の提供ではなく、社会的に弱い立場にある人々が自己の尊厳に気づき、正当な権利を行使できる力を養うことを目的にした「権利ベースアプローチ」による支援を採用。自ら物事を決定するシステムを構築することで、持続可能な開発を目指しました。
3日のシンポジウムでは、諮問委員を務めたマナベンドラ・マンダル氏(インド)、モヒウッディン・アフマド氏(バングラデシュ)がスピーチ。マンダル氏は、権利ベースアプローチと、草の根の活動を続ける中規模団体への支援が最貧困層の生活改善につながるとともに、支援活動の実績を重ねたNGOも、他団体からさらなる助成を受けられるようになったと述べました。また、アフマド氏は受益者の力を引き出し、持続可能なコミュニティー開発を行うためには、地元の資源を活用した支援を継続することが大切と指摘しました。
地域社会が自立し諸課題解決の力を
支援先のNGO「アントヨーダヤ・チェタナ・マンダール」(インド)が設置した井戸により、村人は安全な水の確保が可能になりました
続いて、支援先のNGOを代表して4人が活動報告を行いました。
スリランカの「トリンコマレー開発協会」のシモン・ラクスマナン会長は、津波やサイクロンなどの自然災害、内戦により甚大な被害を受け、多くの国内避難民が発生した状況を説明。同プログラムの支援を受け、学校の建設や教育の推進、避難民の帰還事業に取り組んだことを報告しました。
バングラデシュの「ソリダリティ」のハルン・アル・ラシッド・ラル事務局長は、気候や自然災害などの影響で食料不足に苦しむ人々に対する支援を紹介。コミュニティー内でグループをつくり、農作物の加工技術の習得、竹を利用した手工芸品の制作といった職業訓練により、生活が改善しつつあると強調しました。
インドの「ジャン・ジャグリティ・ケンドラ」のレックス・メフタ所長は、抑圧された女性たちに対する食料確保のための事業を報告。女性による自助グループを組織し、農業開発を通じて食や栄養への意識変革を促したことで、収入が向上したと発表しました。
また、インドの「セバ・ジャガット」のサティヤ・ナラヤン・パタナヤク所長は、識字率が70%程度の少数民族の子供たちを対象に、職業訓練や栄養指導、教育システムの構築などに取り組み、教育や権利に対する子供たちの意識が向上したと説明。多くの若者が大学に進学するなどの成果が得られたと強調しました。
このあと、『南アジアにおける貧困の撲滅に向けて――NGOの声』を主題に、『人権の観点から』『農村開発、コミュニティーの観点から』『食の安全保障の観点から』のテーマ別に分科会を実施。少数民族、女性といった社会的弱者への教育の重要性、住民参加型のコミュニティー開発の大切さ、食の安全確保のため地域社会が自立する必要性などが語られました。
最後に、大橋教授がコーディネーターを務め、各分科会の内容について意見が交わされました。
◆南アジアプログラム終了にあたって 諮問委員 モヒウッディン・アフマド氏(バングラデシュ) 根底にある自己犠牲 一食の精神に深く感銘
庭野平和財団の「南アジアプログラム」は他の企業や財団からの寄付や支援と違い、「一食を捧げる運動」による献金を財源としていることが非常に興味深い点だと感じました。
すべての宗教に共通するものに、人に施す自己犠牲の精神があります。「一食を捧げる運動」は食事を抜くことで自ら空腹感を味わい、貧困者の痛みや苦しみを感じながら献金する取り組みと伺っています。まさに献身的な施しではないでしょうか。しかも、一人ではなく多くの人が進んで実践されている。その精神性は非常に気高く、素晴らしいものです。「一食を捧げる運動」の哲学にとても感銘を受けました。
こうした精神性に基づく助成を受けた団体や受益者たちは、資金的な支援にとどまらず、遠く離れた場所から自分たちに心を寄せてくれていることに、連帯感を感じることができます。それが必然的に資金を無駄なく、大切に使うことにもつながるのです。
南アジアプログラムの特長の一つに、「権利ベースアプローチ」がありました。これは、社会的に弱い立場にある人々が自らの尊さに気づき、正当な権利を行使できる力を養うことを目指すものです。誰もが本来、幸せに生きる権利を持っています。そのことを自覚することが何より大切です。南アジアプログラムは、単に物資を提供するだけではなく、人間としての尊厳に目を向けてもらうための活動でした。
プログラムを通じ、支援を受けた団体が、現地の人々による自助グループを組織したり、職業訓練を実施したりして、コミュニティーに根づいたさまざまな開発を行えるようになりました。その結果、受益者が少しずつ自らの権利を自覚し始めています。今後も貧困の削減に向け、現地の人々と共に努力を重ねていきたいと思います。
(2015年2月20日記載)