科学者と宗教者が一堂に会し、核兵器廃絶に向けた役割や責任について意見を交換。今後も協力していく意向が示されました
被爆70年の長崎で11月6日、WCRP(世界宗教者平和会議)日本委員会、長崎県宗教者懇話会および、核兵器と戦争の廃絶を議論する科学者の世界組織「パグウォッシュ会議」のメンバーが対話集会を行いました。核軍縮をめぐり足並みの揃わない世界の現状を踏まえ、各国の政策決定者や世論に対し、人間性の復興を訴えていく重要性が確認されました。発題者の提言を紹介します。
開会あいさつに立った野下千年同懇話会会長(カトリック長崎大司教区司祭)は、「科学者と宗教者は過去の長い歴史の中で対立すべき存在という印象を与えてきた。長崎でこのような会議を開催でき、非常にうれしい」と対話集会の意義を語りました。
イギリスの物理学者でパグウォッシュ会議国際評議員のクリストファー・ワトソン氏は基調講演で、核兵器が人類の存続を脅かす危険性を指摘。世界の核弾頭数はピーク時の3分の1程度に減少している一方、核兵器の高性能化で破壊力は格段に上がり、使用された場合、平均気温が20度下がるなど地球環境の大規模な変動が生じると説明しました。「70年間使われていないから、これからも使われないだろうと考える人は多いが、それは間違い」と述べ、核兵器によって安全保障の均衡が保たれるとする核抑止論に反論しました。また、パグウォッシュ会議が、軍縮に関連する国際条約の締結や東西冷戦期の米ソ間の交渉の仲介に尽力してきた経緯に触れ、近年は核兵器の問題に加え、気候変動やエネルギー政策といった環境問題、各地の紛争問題など地球規模の検討課題が増えている、と報告しました。
宗教者の立場から基調発題に立ったWCRP日本委理事長の杉谷義純天台宗宗機顧問は、第1回WCRP世界大会の宣言文に盛り込まれた第二次世界大戦への反省に言及しました。その上で、WCRPが取り組む「核兵器禁止条約の早期交渉開始に向けた各国政府への働きかけ」「『核なき世界』への教育の推進」について説明。「人間の欲望の肥大化が人類最大の課題となりつつあることを十分に認識し、欲を少なくし足るを知ることの大切さを訴えていかねばなりません」と語り、世論への働きかけと連携強化の重要性を強調しました。
これを受け、パネリストの一人、アルゼンチンの物理学者カレン・ホールバーグ氏は、「科学はどう人類に寄与するかを考えなくてはならない。科学の発展の方向性には科学者の意思が影響するので、“魂の覚醒”に責任を持つ宗教者との協力が大切」と発言。WCRP日本委核兵器廃絶・軍縮タスクフォース運営委員の三鍋裕師(日本聖公会横浜教区主教)は、「科学技術は正しい使い方をしなければ人類を不幸にするというメッセージを強く発信してほしい」と述べました。
集会の終盤には、「科学技術の進歩と歩を一にする深い人間性(精神性)があって初めて、非人道的で非正当な核兵器の廃絶は実現する」とのアピール文が発表されました。
(2015年12月25日記載)
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