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2016年03月01日 東日本大震災から5年----被災地の教会長に聞く

東北地方の太平洋岸を中心に大きな傷跡を残した東日本大震災の発生から、まもなく5年が経過します。死者1万5894人、行方不明者2562人(2月10日現在、警察庁)。特に、東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射線の影響で、未曽有の災害からの復興は少しずつ進められながらもいまだに目処(めど)の立たない部分もあり、地域によって差異が大きく、厳しい道のりとなっています。交通網や防潮堤、土地のかさ上げをはじめとしたインフラの整備、仮設住宅から災害公営住宅(復興住宅)への転居などの動きも報じられていますが、現在も避難者は17万4000人を数え、震災関連死と認定された死者数は3400人を超えます。震災による心の傷は今なお深い状態です。復興は被災地のみならず日本全体に与えられた試練であり、立正佼成会でも、震災直後から教団本部の「こころ ひとつに」プロジェクトや全国の教会により被災地への物心両面の支援が行われ、継続した支援活動の重要性が呼びかけられています。3月11日を前に、釜石、石巻、原町の3教会の教会長に、この5年間を振り返りながら、被災地での市民の暮らしやこれまでの復興の動き、課題や展望などについて聞きました。

寄り添い、絆を強め 確かな歩みを

小林克州・釜石教会長
全国の皆さんの温かいお慈悲、ご支援のおかげさまで今日まで歩んでくることができました。津波で流失した大船渡道場は一昨年10月に、大槌道場は昨年10月に、それぞれ再建、落成のお手配を頂き、やっと全支部に依りどころとなる道場が整いました。言葉で言い尽くせないほど、感謝の思いでいっぱいです。
岩手県では4673人が地震や津波で亡くなり、1124人が今も行方不明です。会員さんの中にも、いまだに親族の行方が分からない方がいます。この5年間、私は皆さんが抱える不安を安心に変えることを最優先に考えてきました。共に悩み、共に泣き、苦や問題を一つ乗り越えたら喜び合う。一つ一つの縁に、全身全霊を注いできました。
沿岸部では、かさ上げ工事や防潮堤の建設が進み、災害公営住宅への転居も少しずつ行われるなど、復興が順調なようにも見受けられます。しかし、県内では1万5000人以上、会員さんでも328人が現在も、仮設住宅での生活を余儀なくされています。津波で自宅を失ったある会員さんは、かさ上げ工事が終わる3年後に、元の土地に家を建てたいと願っています。5年経っても将来が見通せず、自立再建に向けて動き出せない人も少なくありません。
また、今でもふとした瞬間に「死にたい」と漏らす方や、表面的には明るく振る舞いながら、心に深い傷を抱えている人もいます。そうした方々を支え続けているのは、信仰を持つサンガの存在です。人は一人では生きられません。サンガの異体同心の寄り添い、温かい触れ合いに心が癒やされ、少しずつ前向きに切り替わっていっています。
千年に一度といわれる震災を経験した私たちにできる恩返し——それは、被災体験をいつしか宝と受けとめ、人さまの痛みや苦しみに真剣に寄り添える、菩薩行の手本となる生き方をしていくことだと思います。しかし、それには心のケアが不可欠であり、言葉ほど簡単ではありません。
被災した方々の多くは今も出口の見えない暗闇を歩いています。しかし、サンガが支え、共に歩むことで、必ず希望の光が見えると信じています。よりこまやかな心のケアを心がけ、最後の一人が心から喜びを感じられる日まで、絆を強めながら一歩一歩、歩みを進めたいと思います。

一つ一つの出会いを善き縁に

安井利光・石巻教会長
震災から5年、これまで全国の皆さまに多大なご支援を頂いたことに、改めて深く感謝を申し上げます。
震災で壊滅的な被害を受けた宮城県沿岸部も、この5年でインフラや商業施設などが整い、少しずつ再建に向かい始めています。港の機能が回復し、町の産業の要である漁業も徐々に活気を取り戻してきました。一方で、復興が遅れている地域もあり、いまだに仮設住宅で不便な暮らしを強いられている方々がおられるのが現状です。
月日が経ち、被災地の復興は進んでいるように見えますが、現地の方々の心の傷が癒えたわけではありません。震災後からしばらくは、不意にあの日の記憶がよみがえり、何も考えられなくなる方が何人もいらっしゃいました。また、ご家族や大切な人を亡くされた深い悲しみから、今も前を向くことができずにいる方もおられます。それでも今日まで、被災地の方々が少しずつでも前進してこられたのは、同じ思いを背負う仲間の存在を支えとし、家族のように手をとり合ってきたからではないかと思っています。
石巻教会では今、毎月4日を布教の日とし、支部長さんや主任さんを中心に地域の方々や会員さんのお宅を訪ね、お話を聞かせて頂いています。今年からは月に一度、飛び込みで布教に回る「たんぽぽデー」も始まりました。信仰を頂く私たちが先頭に立ち、触れ合う人に、一瞬でも安心や希望を感じて頂けるような縁になっていく。それこそが、これからの復興に必要なことであり、私たちの役目と感じています。
先日、ある主任さんから、「佼成会はいいから」と一度断られていた地域の方と、「佼成」の表紙の絵を話題に再度触れ合うことができたという、うれしい報告を頂きました。小さな出来事かもしれませんが、そうした温かい出会いを粘り強く積み重ね、「あなたになら話したい」と、地域の方々に心を開いて頂ける私たちになることが大切だと思うのです。
自分のことは後回しにしてでも、目の前の人の思いに寄り添いたい。そんな菩薩の芽が少しずつ、教会の中で広がり始めていることに、私自身、前に進む大きな勇気を頂いています。これからも会員さん方と力を合わせ、一つ一つの出会いを善き縁にできる私たちになっていきたいと願っています。

仏のはからいと慈悲 感受し力に

久保木伸浩・原町教会長 
原町教会は福島県相馬、南相馬、田村(一部)の3市と相馬郡・双葉郡の5町3村を包括し、6支部に分かれています。その中の大熊支部が包括する大熊町と双葉町に東京電力福島第一原発があります。震災、原発事故から5年が経過しますが、包括地域が広範囲にわたり避難区域に指定され、住民は今も避難を続けています。原町教会でも8割の会員さんが県内外での避難生活を余儀なくされています。
県内ではいわき市、福島市、郡山市や会津地方など全域に避難しています。各家ご命日や年回・追善供養を行えるようになり、支部長さんを中心にそのもとを訪ね、互いの近況報告をしています。また、避難先から教会に参拝できない会員さんには機関紙誌、教会の予定表、教会長だよりを郵送し、ご法の縁を結ばせて頂いています。避難先での生活が落ち着き、教会道場に参拝される会員さんも増えてきました。
私は教会長のお役を拝命して以来、開祖さまのご法話『心に本仏を勧請する』を短冊にし、会員さんに渡しています。中でも「私たちは久遠本仏のいのちに生かされて生きています」「どのような状態に置かれても、またどのような人と触れ合っても、常に仏さまのはからいと慈悲をしっかり感受できる信仰者になってほしい」というお言葉をかみしめ、「生かされていることに感謝し、すべての縁から学ばせて頂きましょう」と繰り返しお伝えしています。開祖さまのみ教えが長きにわたる避難生活の心の支えとなることを念じております。
福島県では津波による犠牲者と震災関連死に認定された方を合わせて3854人にもなります。原発事故がなければ生じることのなかった家族の分断や故郷の喪失など問題は山積しておりますが、たくさんの功徳も頂いております。子供に対する憧れの職業に関するアンケートでは、警察官、消防士、看護師が上位で、これは人さまのいのちを救うという天命を生きる大人の後ろ姿を見て、子供の仏性が輝いたことの証しと思います。
全国の教会の皆さまには、避難した原町教会のサンガを受け入れてくださり誠にありがとうございます。被災地を忘れずに、支援を続けてくださっていることに重ねて感謝申し上げます。皆さまから頂く祈りをエネルギーに、これからも会員さんと「みんなひとつ」に前を向いて修行させて頂きます。

(2016年3月 3日記載)