ICJの勧告的意見の発表から20年。核兵器廃絶に向け、課題や宗教者の役割が2日間にわたり議論された
今年は、1996年に国際司法裁判所(ICJ)が、核兵器の使用または使用の威嚇は一般的に違法であり、あらゆる国家は核兵器の完全軍縮を達成する責務を負うとした「勧告的意見」を発表してから20年を迎える。この勧告を実現するため、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)国際、日本両委員会は8月2、3の両日、東京・渋谷区の国連大学で『核兵器廃絶に向けた国際特別セッション〜ICJの勧告的意見から20年』と題する国際会合を開催した。核廃絶・軍縮に取り組む宗教者や研究者、国会議員、NGO代表など11カ国から約80人が参加。本会から同国際共同議長と同日本委理事を務める庭野光祥次代会長が出席した。
2日の「WCRP/RfP国際軍縮・安全保障常設委員会ビジネスセッション」は非公開で行われた。翌3日は、前日の議論を踏まえ、「公開シンポジウム」として実施された。会場には、高校生を含む市民60人も参集した。
オープニングとなる第1セッションの冒頭、主催者を代表し、杉谷義純同日本委理事長(天台宗宗機顧問)、ウィリアム・ベンドレイ同国際委事務総長があいさつ。クリストファー・ウィラマントリー元ICJ判事からの特別メッセージが紹介された。この中でウィラマントリー氏は、核兵器は国際人道法の根本概念を否定するものであり、全人類の尊厳を脅かすものと指摘。いかなる状況でも、核兵器の使用は明白な違法との見解を示した。さらに、「宗教の教えに従えば、人類は世界平和に向けて倫理にかなった道を歩むことになる」と強調し、核兵器の廃絶に向けた諸宗教者の活動に期待を寄せた。
日本原水爆被害者団体協議会の田中煕巳事務局長が被爆体験を語ったのに続き、同国際委共同会長でガンジー開発財団創設者のエラ・ガンジー氏とマーシャル諸島のアネット・ノート公使が発題。ガンジー氏は、インド独立の父として知られる祖父のマハトマ・ガンジーが提唱し、実践した「非暴力、不服従」運動に触れながら、「悪と決して協力しないという精神と手段を用いることで、私たちが求める平和は実現できる」と述べた。また、ノート氏はビキニ環礁で実施された米軍の核実験の影響を報告。自身の夫を含め、多くの国民が被爆し、生命が脅かされてきた被害の現状とその大きさを訴えた。
このあと、明石康元国連事務次長、パックス・クリスティー・インターナショナル国連代表のジョナサン・フレリッチ世界教会協議会シニアコンサルタントがあいさつ。2009年にチェコ・プラハでオバマ米大統領が核廃絶に向けた演説を行い、国際世論の期待が高まった一方、核保有・開発を進める国もあるなど、国際的な課題を説明した。
平和への取り組み 高校生が発表
『核軍縮に向けた宗教者と宗教協力の役割』をテーマにした第2セッション・パネルディスカッションでは、前広島市長の秋葉忠利・原水爆禁止広島県協議会代表委員、聖エジディオ共同体(本部・ローマ)のアルベルト・クワトルッチ事務局長ら6人が発題。自治体やNGO、宗教などそれぞれの立場から、核兵器の廃絶に向けたアプローチを提案した。
さらに、特別セッションでは、ヒロシマ・ナガサキの声を世界に届ける「第18代高校生平和大使」を務めた活水高等学校(長崎県)2年生が活動を紹介したほか、佼成学園高等学校(男子校)3年生、佼成学園女子高等学校1年生ら4人の高校生が平和に向けたそれぞれの取り組みを発表。海外からの発題者が応答し、若者の取り組みにエールを送った。
最終セッションでは、『「核兵器の廃絶に対する私たち共通の道義的・法的義務」 核兵器による威嚇、使用の合法性に関する国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見発表20周年に寄せて』と題する声明文が採択された。
最終声明文
「核兵器の廃絶に対する私たち共通の道義的・法的義務」
核兵器による威嚇、使用の合法性に関する国際司法裁判所(ICJ)の
勧告的意見発表20周年に寄せて
2016年8月3日日本国東京国連大学
20年前の1996年7月8日、国際司法裁判所(ICJ)は歴史的な勧告的意見を発表し、「核兵器による威嚇もしくはその使用は、武力紛争に適用される国際法の諸規則、そして特に人道法の原則及び規則に一般的に違反する・・・」、「厳格かつ効果的な国際管理の下において、すべての側面での核軍縮に導く交渉を誠実に行い、かつ完結させる義務が存在する」と宣言した。
ICJの意見は、諸宗教共同体、非政府機関、そして政府が、核兵器の廃絶を促進するための法的根拠を与えた。とりわけ、その勧告的意見は、1996年から今日に至るまで、核兵器を禁止し廃絶するグローバルな条約である核兵器禁止条約を求める力強い国連総会決議を加盟国の圧倒的多数で採択することを可能にした。
私たち、諸宗教共同体、市民社会組織、議員、学者、指導的立場にいる外交官、そして高校生の代表は、2016年8月2日と3日の両日、日本国東京の国連大学においてReligions for Peace (RfP)国際軍縮・安全保障常設委員会特別会合を開催した。私たちは、核兵器のない世界を実現するために、パートナーシップを強化することを新たに決意する。
私たちは、核兵器のいかなる使用を正当化するための、道徳、宗教あるいは法律における適法な議論は成り立たず、核兵器の使用は、これまで数世紀にわたって積み上げられてきた国際法と人道法のすべての諸原則に反するということに合意した。無差別性を有する大量破壊兵器としての核兵器は、本来的に邪悪である。したがって、核兵器の開発ならびに保有さえも道義的に異常といえる。
私たちはさらに、核兵器の使用もしくは保有を非とする道義的・倫理的責務は、人間の良心の奥底から生じるという理由から、すべての善意の男女に通用することを確信する。そうした人間の良心は、核兵器の適法性に関する技術的な議論以上に根源的であり、さらにそうした議論の基盤にもなるからである。この意味において、私たちは、バラク・オバマ米国大統領が2016年5月、広島市を訪問した事実に大いなる光明を見出す。
私たちは特に:
1)2015年12月に採択された国連総会決議「核兵器のない世界のための道義的責務」を支持する。同決議は、「国際社会が国連憲章の高貴な諸原則に順ずること」を想起し、「無差別性と人類を絶滅させる潜在力から、核兵器は生来的に道徳に反している」ことを宣言している。
2)新たな法的枠組みの基礎として、「核兵器の人道的影響」を訴えるための国際的な各界間のパートナーシップの構築に向け、私たちの取組みを新たにする。その法的枠組みとは、化学兵器や生物兵器などの他の大量破壊兵器に課せられているのと同様な道義的・法的な基盤の上に立って核兵器を禁止するものである。
3)核兵器の廃絶交渉を誠実に速やかに開始するという核不拡散条約(NPT)に基づく法的義務を履行することを核兵器国に強いるために、マーシャル諸島共和国が国際司法裁判所(ICJ)に提訴した訴訟の判決が近々示される状況において、ICJを信頼する。
4)2015年12月7日に投票された国連総会決議によって設置された「公開作業部会」の議長が、さる7月28日に公表した議長報告草案(ゼロ草案)を建設的に精査し、また、核兵器のない世界を実現するための「法的措置、法的規定と規範」を開発するため、同部会の最終セッションに積極的に参加するよう政府に促す。私たちは、同報告草案に盛り込まれた「最終的には完全廃絶に向かうよう核兵器を禁止するための法的拘束力を有する規定を交渉するために」2017年に国連総会が国際会議を開催するとした勧告に強く賛同する。
5)被爆者(広島・長崎の原爆投下の生存者)により進められている核兵器廃絶国際署名キャンペーンを強く支援する。その署名要請文は、「これから生まれてくる将来の世代が、この地上において再び地獄を見ないよう被爆者が生存中に核兵器のない世界を実現することが、私たちの強い願いである」と述べている。
6)被爆者と核実験によって深刻な障害を被った数多くの国々の人々の、人間としての尊厳が冒されてきた事実を認識し、かつ、彼らの尊厳の回復と彼らの要求を真剣に熟慮することを要望する。
7)第1に、2015年4月21日に東京において、「核軍縮・不拡散議員連盟」(PNND)日本とWCRP(RfP)日本委員会によって発表された共同提言、第2に、2015年8月6日に広島においてRfP国際委員会、国際PNNDそして平和首長会議が発表した共同声明を再確認する。前者は、北東アジア非核兵器地帯の創設の必要性を強調し、後者は、広島・長崎への原爆投下70年を期して採択され、2015年9月に国連総会議長に提出された。
私たちは、高校生が彼らの意見を述べ、核兵器の廃絶に向けて真摯な願いを表明したことに感謝の思いを表したい。彼らの参加は、核兵器のない世界を築くために、現代の世代が希望を持って責任を果たしていくための後押しになった。若い世代により積極的に関わってもらうためには、包括的な平和教育が必要である。
最後に私たちは、RfP国際軍縮・安全保障常設委員会と協働して、核兵器廃絶のための行動において、他の市民社会、政府・非政府関係者とのより効果的なパートナーシップに向けて、軍縮問題に対する関心の喚起、協調的なアドボカシー活動の支援、宗教指導者とコミュニティーによる関与と強化に取り組んでいきたい。
(2016年8月25日記載)