スピーチの中で光祥次代会長は、貧困や社会的排除といった課題に対し、仏教的観点から無私の行である「布施」の大切さを語った
庭野光祥次代会長は10月31日から11月6日までイタリア・ローマを訪れた。10月31日、11月1日の両日には、ローマ教皇庁科学アカデミー、同社会科学アカデミー、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)国際委員会によるハイレベル会合に出席。同国際共同議長の一人として仏教徒の立場からスピーチを行った。また、3、4の両日には、アブドッラー国王宗教・文化間対話のための国際センター(KAICIID)と創設オブザーバーのバチカン諸宗教対話評議会共催の国際シンポジウムに同理事として参加した。
『持続可能で不可欠な開発に向けた行動の倫理』をテーマに、10月31日、11月1日の両日、バチカン庭園内「ピオ4世のカッシーナ」で開かれたハイレベル会合には、WCRP/RfP国際委のウィリアム・ベンドレイ事務総長、同国際共同議長のジョン・オナイエケン・ナイジェリア・アブジャ教区大司教をはじめとする諸宗教指導者、国連事務総長のアドバイザーを務めるジェフリー・サックス博士ら経済学者、研究者約30人が出席した。
同会合は、ローマ教皇フランシスコによる回勅「ラウダート・シ」に示された「地球という私たち共通の家について全世界の人と対話をしたい」との願いを受けたもの。「気候変動」「貧困」「移民」「暴力」など八つの地球規模の課題に対し、多分野の国際リーダーが連携して新プロジェクトを立ち上げ、効果的でグローバルな行動を促進する。今後2年をめどに8回の会合が持たれる予定で、今回は1回目となる。WCRP/RfP国際委は同会合の運営と資金の両面から援助を行う。
31日の円卓会議では、世界の主要課題に対し、宗教や科学などの視点から意見を交換。特に「持続可能な開発目標」(SDGs)に主眼を置き、紛争などで教育の機会を奪われた世界の子供たちや、極度の貧困状態にある人々への支援の緊急性が話し合われた。
法華経の核心は「仏性」「久遠本仏」「菩薩行」
翌1日には、さまざまなテーマで討議が行われた。光祥次代会長は、『多様な世界における地球的倫理:伝統宗教からの道徳的な事例』と題したセッションにパネリストとして登壇。冒頭、釈尊が出家した経緯を説く「四門出遊(しもんしゅつゆう)」のエピソードを踏まえ、生老病死の苦悩をいかにして乗り越えるかが仏教の起こりであると説明した。
その上で、自身が信じる法華経の核心は「仏性」「久遠本仏」「菩薩行」の三つであると言及。菩薩行の具体例として「六波羅蜜(ろくはらみつ)」の「布施」を挙げ、他者に施すことによって自分の心が豊かになり、「人間的な徳を布施によって養わせていただける」と伝えた。
さらに、本会の実践として、「一食(いちじき)を捧げる運動」を紹介。苦しむ人に思いを馳(は)せ、食事を抜いて空腹感を味わい、抜いた一食分の金額を献金するという「同悲同苦」の活動を通し、生きる喜びを分かち合うことができると語った。
この他、デビッド・ローゼン米国ユダヤ人委員会諸宗教間関係国際部長や、WCRP/RfP国際共同会長のムハンマド・アル・サマック博士らが発表した。
KAICIID理事として国際シンポに出席 諸宗教対話の絆強める
また、3、4の両日、教皇庁立グレゴリアン大学で、『平和と和解に向けたいつくしみについての諸宗教の経
験と分かち合い』と題して、国際シンポジウムが行われた。同シンポジウムは、「第二バチカン公会議」閉幕50周年にあたる昨年12月8日から今年11月20日までのカトリックの行事「いつくしみの特別聖年」に合わせて開かれたもの。諸宗教指導者、政治関係者、光祥次代会長をはじめKAICIIDの理事ら約50人が出席した。
3日の開会式では、バチカン諸宗教対話評議会次官のミゲル・アンヘル・アユソ・ギクソット司教と、KAICIIDのファイサル・ムアンマル事務総長があいさつ。アユソ次官は「慈悲の実践は無関心の反対であり、とても宗教的な行動。さまざまな困難を解決することにつながる」と呼びかけ、ファイサル事務総長は「生命の源である慈悲の尊さを、人道的な観点から全人類に伝えていくことが宗教の責務」と訴えた。
厳しい現実に相対し 謙虚に努力を継続
聖エジディオ共同体本部で行われた調印式。マルコ・インパリアッツォ会長と合意書に署名し、握手を交わす光祥次代会長
この後、諸宗教指導者による全体討議が行われた。パネル2に登壇した光祥次代会長は、日頃口にするバナナを例に挙げ、フィリピンの農園で子供たちが収穫したバナナを食べるということは、その子供たちによって自分の存在は支えられていることになると解説。それを「仏教の縁起観の一端」と示し、自分以外の存在によってしか、自分は自分として存在し得ないと言えると語った。
さらに、今年、レバノンとナイジェリアで難民および国内避難民キャンプを訪れた際、厳しい現実を前に無力さを痛感したと述懐。「行動が大事である」と実感したと話し、「慈しみによって世界の平和や和解が実現されると同時に、世界の課題があるからこそ、そしてそれに挑戦することにより、私たちの中に慈しみが育つとも言える」と訴え、謙虚に努力を続けていきたいと結んだ。
この他、「イスラーム国」(IS)を名乗る過激派組織から非道な攻撃を受けている宗教的少数派のヤジディ教徒や、シーク教徒の代表など4人が発表に立った。この中で、ヤジディ教徒代表のタシン王子は、過去2年間にわたり、過激派組織によって3000人以上の女性や子供が誘拐、虐殺されてきた現状を伝え、「私が望むのは皆さんの助けです。慈しみの実践として少数派の我々のために行動してほしい」と訴えた。
行程を終えた光祥次代会長は、「昨年、『ノストラ・エターテ』50周年の集いのスピーチで、『対話のアップグレード』が必要とお話ししたのですが、その思いがさまざまな人との縁を結び、今回、教皇さまの『行動の倫理』の精神と共鳴したように感じました。行動がなければ何も始まりません。今後も、多くの人と手をとり合い人類の幸せのために平和を築いていきたい」とかみしめた。
また、光祥次代会長は2日、ローマ市内にある聖エジディオ共同体の本部を訪問。本会と同共同体のさらなるパートナーシップを深める「フレンドシップ合意書」の調印式に、庭野日鑛会長の名代として出席した。
1986年、教皇ヨハネ・パウロ二世の呼びかけによりアッシジで「世界平和祈願の日」の集いが行われ、同共同体はその精神を引き継ぐため、翌年から毎年、欧州各地で「世界宗教者平和のための祈りの集い」を開催。本会は86年の「世界平和祈願の日」の集いのほか、87年からの「世界宗教者平和のための祈りの集い」に毎年参加している。また、同共同体と連携し、アフリカのモザンビークとマラウイで「アフリカへ毛布をおくる運動」や一食平和基金の事業を展開している。これらの活動を今後、アフリカ全土に広げ、貧困や搾取に苦しむ人々のために一層の協働を図ることを目的に、合意書の調印に至った。
(2016年11月17日記載)