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2002年03月30日 WCRP日本委主催「第28回平和のための宗教者研究集会」

昨年9月11日に起きた米国同時多発テロ事件、その後のアフガニスタンへの武力行使を踏まえ、WCRP(世界宗教者平和会議)日本委員会は3月30日、浄土真宗本願寺派の本山・西本願寺(京都市下京区)で『9・11と宗教者の役割――今こそ宗教間の対話と協力を!』をテーマにした「第28回平和のための宗教者研究集会」を開催しました。同研究集会には、庭野日鑛会長をはじめWCRP日本委加盟教団から約200人が参加。講演、パネルディスカッションなどを通し、平和を阻害する要因に対する非暴力的解決の可能性を探りました。

米国同時多発テロ事件、アフガニスタンへの武力行使という事態は、対話と協力、また非暴力の精神を根底に置いて活動を続けてきたWCRPに大きな"宿題"を投げかけました。力による問題解決を一種の「常識」と受けとめる国際政治との間のギャップが、これまでになく鮮明になったからです。こうした現状に、一昨年、創設30周年を迎えたWCRPの培ってきた「宗教の智慧」とネットワークは、どう対応していけるのか。この問題意識と危機感が、今回の研究集会の前提となりました。

研究集会では、まず白柳誠一・WCRP日本委理事長=カトリック枢機卿=が、開会あいさつ。「米国でのテロ事件、それに対する報復行動は、両方とも非常に似通っています。それはいのちを粗末にしている点です。宗教者にとっていのちは中心的課題であり、このことを共に考えていきたいと思います」と述べました。
続いて、眞田芳憲・WCRP日本委平和研究所副所長(中央大学法学部教授)と杉谷義純・同日本委事務総長(天台宗円珠院住職)の2人が主題講演。眞田氏は、イスラームに対する知識不足、アメリカ的正義の問題点などを指摘しながら、「18世紀のパスカルは、『ピレネー山脈を越えると、いま一つの正義がある』と言いました。国家は国益を優先するものであり、正義の考え方も国益によって2つにも3つにもなります。しかし本当の正義はそのようなものではありません。生命の尊厳を否定するようなものは正義ではないのです。生命の尊重。これは本当に宗教だけができる仕事ではないかと思います」と語りました。
杉谷氏は、昨年10月末、ニューヨークで開催された「世界の諸宗教指導者による国際シンポジウム」(WCRP国際執行委員会主催)での声明文に触れ、テロリズムに関する国連特別総会の開催、国際裁判所の設立などをあらためて提言。その上で、「ニューヨークでテロが起きたときには、多くの宗教者が集まりましたが、ソマリアでの大量虐殺の際にはどうだったでしょうか。取り組み方に差別はないか、というジレンマの中にいます」と語り、より公平な対応が必要なことを強調しました。
パネルディスカッションでは、同平和研究所所員の山田經三・上智大学経済学部教授、奈良康明・駒沢大学元学長、薗田稔・秩父神社宮司に主題講演の眞田氏、杉谷氏を加え、5人のパネリストが壇上に。畠山友利・同日本委事務次長がコーディネーターを務めて議論が展開されました。

山田氏は、『ゆるしなくして正義はありえない。正義なくして平和はありえない』というローマ教皇ヨハネ・パウロ2世の言葉を紹介し、「この言葉は、ブッシュ大統領への挑戦であると思います」と位置づけました。また「いのちの尊厳こそ第一。宗教は隣人を愛することを教えるがゆえ、報復戦争も許されません。共生とは、違いを喜びとして、互いを必要としつつ、共に生きること。この複雑な状況の中で、宗教は対話・協力をこそ推進していくべきです」と述べました。
奈良氏は、1951年、サンフランシスコ条約が締結された際、スリランカ(当時セイロン)が『怨みに報いるのに怨みをもってしない』という法句経の一節を引用して日本に対する賠償権を放棄したことに触れ、「怨みを否定しても、アメリカなど当事者には、笑う人もいるかもしれません。しかし一人がやらなければ何も始まりません。生きとし生けるものは暴力を恐れます。だからこそ相手を自分の身にあてはめて考えていくという慈悲の原点を踏まえなければならないのです」と訴えました。

薗田氏は、近代ナショナリズムが宗教を利用してきた事実を指摘。日本では伝統的に共同体の中で神仏が共存してきたとし、「生命や自然を尊重して謙虚に生きるという宗教本来のあり方を見つめ直し、ナショナリズムを超えていかなけれなりません。そのためには、日本の伝統を再評価していくべきです」と提言しました。
このあと参加者からの質問に答える形でフロアーディスカッションが行われ、最後に、西田武・同日本委常務理事(一燈園当番)が閉会あいさつに立ち、同研究集会は閉会しました。
同日本委では、今回の研究集会の成果を、本年6月末にインドネシアで開催されるACRP6(第6回アジア宗教者平和会議)での議論にもつなげていく意向です。

(2002.04.03記載)