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2003年06月06日 「『有事関連3法案』成立に対する申し入れ」を小泉首相に提出

「有事法制関連3法」(武力攻撃事態法、改正自衛隊法、改正安全保障会議設置法)が6月6日、参院本会議で可決、成立しました。これを受け、本会は10日、山野井克典理事長名による「有事関連3法成立に対する申し入れ」を小泉純一郎首相にあてて提出しました。

「有事関連3法案」について本会は、去る4月25日、小泉首相にあてて意見書を提出。法案が成立すれば、武力による安全保障が優先される一方で、国民の基本的人権が制限されかねないことから慎重な国会審議を要望しました。しかし「有事法制関連3法」は、十分な審議が尽くされず、多くの課題点を残したまま成立しました。このため「申し入れ」では、武力による問題解決の方策は容認できないとの姿勢をあらためて表明。また、国民の基本的人権が侵される恐れを払拭できないことを指摘すると共に、政府には、むしろ有事法制が行使される事態を回避するために、最大限の外交努力を重ねていくよう、再度要望しました。
「有事関連3法案」は、昨年4月に閣議決定され、第154国会に提出されました。その後、継続審議とされていましたが、今年5月、与党と民主党による法案の修正協議がなされ、今国会で成立しました。
本会は、「有事関連3法案」が第154国会に提出された直後から、関連部門を中心に検討を重ね、4月25日には、山野井克典理事長名による「『有事関連3法案』に対する意見書」を小泉首相に提出しました。意見書では「暴力に暴力で対抗することは、新たな暴力、永遠に続く暴力の連鎖を生み出す」とし、「むしろ日本こそがこうした法制度をもたないことによって、広く国内外に平和への道を示すべき」と本会の基本姿勢を示しました。その上で、政府に対して国会での十分な審議を要望しました。
しかし、「有事関連3法案」は、審議時間も限られ、本会が要望した「いのちを尊重し、人権を擁護し、平和を確立するための道を示していくような法律」とならないまま成立しました。特に、新たな「有事法制関連3法」には、多くの憲法学者が、日本国憲法に定められた基本的人権が侵されかねないとの危惧を表明しています。
思想、良心、信教の自由など、国民一人ひとりの基本的人権は、日本国憲法により、侵すことのできない永久の権利として保障されています。しかし、3法の一つ「武力攻撃事態法」の第3条4項では、「日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合にあっても、その制限は当該武力攻撃事態等に対処するため必要最小限のものに限られ」との文言が明記されました。
「必要最小限」とはいえ、国民の自由と権利への制限が規定されたことは、憲法の趣旨を大きく変更することになるとの指摘もなされています。また規定があいまいなことから、政府の法律解釈次第では、基本的人権が侵害される危険性も払拭することはできません。
埼玉大学の三輪隆教授や北九州市立大学の上脇博之教授ら5人の憲法学者が発表し、110人の憲法研究者が賛同している「有事法案に関する緊急声明」でも、「必要最小限の制限」の名の下に、政府の恣意によって、人権が制限される危険性を指摘。また、人権尊重規定が盛り込まれたとはいえ、「膨大な人権侵害をあらかじめ防止する歯止めとしては非力」と警告しています。
このほか、さまざまな団体が有事法制の成立に関して、基本的人権の侵害、メディア規制など表現の自由が制限される懸念を表明しています。
このほど発表された山野井理事長名による「申し入れ」では、「武力によって問題解決を図る考え方を決して認めることはできない」との本会の基本姿勢をあらためて示した上で、与党と民主党の協議で人権を尊重する条文が付け加えられたことに対して、「法的効果という点については政府案と何ら変わらない」と指摘。基本的人権が侵害される危険性に懸念を表明しました。さらに、本会として武力によらない平和構築への取り組みを続けていく決意を表すと共に、政府にも有事法制が行使される事態を回避するため、最大限の平和的外交努力を重ねるよう要望しています。

メモ「有事関連3法案」

○武力攻撃事態法
他国からの攻撃に対処するための基本方針や手続きを定めたもの。国や地方自治体、指定公共機関の責務、国民の協力を明記している。
○改正自衛隊法
自衛隊の活動を円滑化するための法。道交法など20の法律の適用除外を定めた一方、物資保管命令に従わなかったものに罰則を規定。
○改正安全保障会議設置法
有事を想定し、武力攻撃事態に対処する専門委員会を設置するなど、安全保障会議の強化を規定。

「『有事関連3法案』成立に対する申し入れ」

内閣総理大臣
小泉純一郎殿

立正佼成会は、平成15年4月25日、小泉首相にあてて、「『有事関連3法案』に対する意見書」を提出いたしました。その中で、本法案は、武力による安全保障を前提としたものであり、国民の基本的人権の制限、さらには、国際的な共生の道をも閉ざしかねない等の問題点を指摘し、国会での慎重な審議と政府の良識ある対応を要望いたしました。しかし、本法案は、私たちをはじめ多くの国民が危惧する中、十分な審議も尽くされないまま、6日、参議院本会議で成立いたしました。すべてのいのちを尊重し、人権を擁護し、平和を確立するための道を示していくような法律になり得なかったことは、誠に残念でなりません。

こうした状況に対し、本会としての基本的な考え方を、再度、申し述べたいと思います。私たちは、いのちを尊ぶ宗教者としての立場から、一貫して戦争を否定してまいりました。暴力に暴力で対抗することは、結局、新たな暴力、永遠に続く報復の連鎖を生み出すことになり、宗教的な智慧、それに基づく慈悲の対応こそが不可欠であることを、先の意見書でも申し述べました。私たちは、武力によって問題解決を図る考え方を決して認めることはできません。

また本法案は、先に述べました通り、十分な国会審議が尽くされず、若干の修正を加えたのみで成立しました。とりわけ危惧いたしますのは、「武力攻撃事態」及び「武力攻撃予測事態」に際して、国民に協力義務を課した上で武力による国家の安全保障を行うことに対し、まったく改善がなされていないということであります。

とくに武力攻撃事態等への対処に際し、制限が加えられ得るとされている国民の自由と権利について、それは「武力攻撃事態に対処するため必要最小限のものであり、かつ公正かつ適正な手続の下に行われなければならない」(武力攻撃事態法第3条4項)と定められていました。この条項は多くの論議を呼びました。

その結果、与党と民主党との協議においては、国民の自由と権利に制限が加えられる場合にあっても、日本国憲法第14条(法の下の平等)、第18条(奴隷的拘束及び苦役からの自由)、第19条(思想及び良心の自由)、第21条(集会・結社・表現の自由)、その他の基本的人権に関する規定は最大限に尊重されなければならない、との条文が付け加えられたのであります。

それによって政府案は大きく改善されたかのように伝えられています。しかし、法的効果という点については政府案と何ら変わらず、基本的人権に対する「必要最小限の制限」は認められております。

この「必要最小限」の名の下に、基本的人権が侵される危険性は、私たちはじめ多くの国民が危惧するところであります。思想、良心及び信教の自由もまた、「武力攻撃事態」のみならず、有事への準備における段階でも制限されてしまう恐れを払拭することができません。

本会は、世界宗教者平和会議(World Conference on Religion and Peace)やアジア宗教者平和会議(Asian Conference on Religion and Peace)を通じて平和構築へ向けたさまざまな取り組みを進めてまいりました。現在、耳目を集めている北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の問題に対しましても、アジア宗教者平和会議では、北朝鮮宗教者の参加を求め、各国の宗教者と対話・協力を行うなどの取り組みを続けてきております。

いのちを犠牲にして、本当の平和を築くことはできません。「武力攻撃事態」とか「武力攻撃予測事態」を論議する前に、このような事態そのものが起こらないようにすべきであります。そのため私たちは、今後も、宗教者をはじめ国内外の心ある多くの方たちと協力し、武力によらない平和構築への取り組みを続けていく所存であります。

政府は、今般の有事法制が行使される事態を回避し、今後のいかなる外交課題に対しても、平和的な解決に向けて最大限の努力をして頂きますよう強く要望するものであります。

合掌
平成15年6月10日

立正佼成会       
理事長  山野井克典

(2003.06.13記載)