庭野平和財団(庭野日鑛総裁、庭野欽司郎理事長)の「第22回庭野平和賞」贈呈式が5月11日、東京・千代田区の日本プレスセンターで行われました。今回の受賞者は、スイス出身のカトリック神学者で、ドイツの「地球倫理財団」会長を務めるハンス・キュング博士(77)。同博士は諸宗教対話・協力の促進に貢献するとともに、グローバル化時代の道徳的基盤、行動指針を示す「地球倫理」を提唱。1998年の国連人権宣言(世界人権宣言)50周年に発表された「人間の責任に関する世界宣言」の起草者を務めるなど、平和構築の実現に力を注いできました。贈呈式では、宮澤喜一・元首相はじめ識者、各宗教の代表者ら180人が見守る中、庭野総裁からキュング博士に賞状と副賞の顕彰メダル、賞金2000万円(目録)が贈られました。
キュング博士は1928年、スイス・スルゼーに生まれました。ローマ教皇庁立グレゴリアン大学で哲学、神学の修士号を取得。司祭に就任後、パリのソルボンヌ大学とカトリック研究所で研究を続け、57年に神学博士号を取得しました。60年から96年まではドイツのチュービンゲン大学で神学部教授を務めました。
この間、エキュメニカル(キリスト教諸教会間一致)運動の推進に尽力し、第二バチカン公会議ではローマ教皇ヨハネ二十三世から公式アドバイザーに任命されました。以後、諸宗教対話・協力に尽力。あらゆる宗教の類似性、共通性を研究し、宗教の普遍的価値を論じてきました。その活動は世界的に注目を集め、「対話の神学への先駆者」「普遍宗教確立への先駆者」と評されています。
同博士は「諸宗教間の平和なくしては、諸国家間の平和はありえない。諸宗教間の対話なくしては、宗教間の平和はありえない」と一貫して主張してきました。
さらに、「世界の諸宗教の教えには普遍的倫理がすでに存在する」として、その倫理をより現実化、具体化し、あらゆる人々の道徳的基盤となる「地球倫理」を提唱。93年、米国・シカゴで開催された「万国宗教会議」の席上、同博士が草稿した『地球倫理宣言』が発表され、採択されました。
同宣言には諸宗教の普遍的倫理として「殺すな(生命を尊重せよ)」「盗むな(正直に公正になせ)」「嘘を言うな(真実を話し、行え)」「性的不道徳をおかすな(お互いに尊重し、愛せ)」の4項目を抽出し、現代的な解釈を加えて「四つの取り消し不能の教令」として提示しました。
「殺すな」の教えからは、社会的・政治的正義、非暴力の推進、自然環境保護、軍備の恒久撤廃などが導き出されます。「盗むな」からは、貧困の撲滅と公正な経済的秩序の必要性が強調され、「嘘を言うな」はマスメディアや政治家などにあるべき説明責任を促します。「性的不道徳をおかすな」では、男女間のパートナーシップ、結婚や家族のあり方が問い直されています。
同宣言は発表直後から、宗教界のみならず各界で反響を呼びました。全世界で出版が進み、将来、国連の地球倫理宣言に結実するのではないかと言われています。
このほか、97年、元国家元首、首相で組織する「インターアクション・カウンシル」(OBサミット)が国連人権宣言50周年に際し発布するよう提唱した「人間の責任に関する世界宣言」を起草。同年、国連事務総長から世界20人の「賢人グループ」の一人に任命されました。現在、WCRP国際委員会の共同会長の要職にもあります。宗教対話・協力の推進、諸宗教の智慧に基づいた「地球倫理」の提唱など、長年にわたる平和構築の努力と功績が高く評価され、今回の受賞となりました。
当日の贈呈式では、庭野平和賞委員会のグナール・スタルッセット委員長=ノルウェー国教会主教=により選考経過が報告されたあと、庭野総裁から賞状と副賞の顕彰メダル、賞金2000万円の目録が同博士に手渡されました。
次いで、庭野総裁があいさつ。中山成彬・文部科学大臣(結城章夫・同事務次官代読)、里見達人・日本宗教連盟理事長=全日本仏教会理事長=が祝辞を述べました。その中で、里見・同理事長は「自我の欲望におぼれる悲惨な出来事が多発する世相の中で、博士が提唱された平和実現に向けての地球倫理に深い感銘を覚えます」と同博士に敬意を表しました。
このあと、同博士が記念講演を行いました。グローバル化時代には、それに伴う倫理が不可欠とした上で、地球倫理の運動と庭野開祖の世界平和に向けた活動とには密接な関連があると述べました。
(2005.05.20記載)
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