緊張が高まるイラク国内の現状を打開するために開かれた宗教指導者会議。参加者は、和平に向け宗教者の一致と融和が重要との認識で合意し、具体的な行動計画を導き出した(写真提供・WCRP国際委員会
今年2月に発生したイラク・サマッラのイスラームシーア派聖廟爆破事件以来高まる同国内の緊張状態を打開するため、WCRP(世界宗教者平和会議)イラク諸宗教評議会の緊急会議が、3月26日から28日まで英国・ロンドン市内のホテルで開かれました。WCRP国際委員会実務議長のハッサン・ビン・タラール・ヨルダン王子の仲介によるもので、イラク政府関係者をはじめ、イスラームシーア派、同スンニ派、キリスト教の各派代表約20人が出席。参加者は率直に意見を交わし、宗派主義を助長しないよう宗教者が一致団結することで合意、イラクの和平に向け具体的な行動計画を盛り込んだ共同宣言文を採択しました。なお、会議開催に対し、本会イラク緊急救援募金の一部が充てられたほか、英国外務省からも資金が援助されました。
会議に参加した宗教指導者たち(写真提供・WCRP国際委員会)
イラクでは昨年12月の国民議会選挙後、宗派主義を背景とした政治的混乱が続いています。今年2月22日にはイラク中部のサマッラでシーア派聖廟の爆破事件が発生。その報復としてスンニ派のモスクが襲撃されるなど宗派間の緊張関係が一層高まり、内戦に発展しかねないとの懸念も生じています。WCRPイラク諸宗教評議会の会議は、こうした状況を踏まえ、宗教者が先頭に立ち危機を回避しようと開催されました。
会議にはイラク政府からイスラームシーア派、同スンニ派の両宗教大臣、シーア派からアヤトラ・シスターニ師(代理)、アブドル・アジズ・アル・ハキーム師(代理)、モクタダ・アル・サドル師(代理)、スンニ派からアブドル・サラーム・アル・クベイシ師、クルド人共同体からマジド・イスマイル・ムハンマド師、キリスト教カルデア教会からアンドリア大司教、同アルメニア教会からアサドリアン大主教などの宗教指導者が参加しました。
イラク国内では宗派間の対立、抗争の経緯から、他宗派と協力する宗教者に対して「裏切り者」というレッテルが張られ、生命の危険にさらされることもあります。そのため宗教指導者が安全に率直な議論ができる対話の場を提供することが重要な課題となっています。
冒頭、ウイリアム・ベンドレイ・WCRP国際委事務総長が、イラクの和平に向けWCRPがこれまで行ってきたイラク国内外での宗教指導者による会議の開催や人道支援、医師の職業訓練など一連の取り組みを説明。「宗教指導者が共に融和、一致、協働を訴えることは大変意義深い」と述べました。
会議では、サマッラの聖廟爆破事件後、その報復としてモスクなどの宗教施設が破壊された行動を黙認した宗教指導者がいたことなどが指摘され、宗派主義を助長しないよう宗教者が一致団結することで合意しました。また、今後の宗教者による具体的な行動計画を盛り込んだ共同宣言文を採択。記者会見の席上、発表されました。
記者会見には地元英国のBBCやNHK、アルジャジーラなど報道関係者約40人が出席。イラク和平に向けた宗教者の取り組みに対する関心の深さを示しました。
【共同宣言文の概要】
イラクの宗教指導者は、一日も早くイラク新政府が樹立され、新政府のもとで国家の安全保障と主権が回復されるよう政治指導者に要請する。あらゆるテロや暴力、犯罪を拒絶する。イラク社会が活性化されるよう、公平でバランスのとれた経済的な発展を目指す。
そのため、宗教指導者は今後次のような行動に踏み出す。
(1)宗教指導者同士のコミュニケーションをより緊密に図る。そのために、各宗派が共に祝える共通の行事などを行い、その融和の姿を国民に示す。また、宗派間の会合も恒常的に行う。
(2)宗教指導者が説教の中で各宗派の平和的共存を説き、あらゆる暴力や犯罪を批判するよう訴える。
(3)他者を敬い、尊重し、他者が成し遂げたものをほめたたえ、そこから学ぶような文化を広める。
(4)宗教的な違いを利用しイラク国民を分断しようとするあらゆる勢力に対し、宗教的な、崇高な精神をもって立ち向かう。
(5)できる限り早期にイラク国内で宗教代表による会議を開催する。また、WCRPイラク諸宗教評議会の組織をさらに強化する。
(2006.04.07記載)
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