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2007年08月19日 「エルサレム青年和解プログラム」開催

ユダヤ人とアラブ人(以下、パレスチナ人)青年の対話を図る「エルサレム青年和解プログラム」=主催・イスラエル諸宗教協議会(ICCI)=が8月19日から23日までエルサレムで行われました。テーマは『記憶と和解の間で――紛争解決に向けた個人のアイデンティティー、集団の記憶、語り継がれるもの』。ユダヤ青年9人とイスラエル国籍を持つパレスチナ青年9人が参加しました。また、ICCIの要請を受け、本会から青年本部の主管によって廣中成匡・学林次長を団長とする一行17人(学林本科生10人と一乗グローバルネットワーク推進メンバー1人、本部スタッフらで構成)が同16日から24日まで同地を訪れ、プログラムに参加。両民族の青年と寝食を共にし、講演やユダヤ教、キリスト教、イスラームの聖地見学、グループ討議や全体会合などの行程に臨みました。

イスラエルとパレスチナの対立は、国際社会の最も深刻な問題の一つです。暴力による破壊や占領、難民や貧困など多くの課題を伴っています。一方、日常生活で、ユダヤ人とパレスチナ人が意見を交わす機会はほとんどないと言われています。
昨年夏、WCRP(世界宗教者平和会議)青年世界大会の事前会議がエルサレムで行われ、ユダヤとパレスチナ青年の対話が図られました。ICCIは対話を継続するため、今回の和解プログラムを企画し、大学などを通じて参加者を募集しました。また、ICCIは、昨年の対話に松本貢一WCRP国際青年委員会(IYC)副委員長(当時)=本会青年本部長=はじめ本会スタッフが参加したこと踏まえ、本会青年の参加を要請。これを受け、青年本部が主管となり、仏教精神の普及と各国の宗教青年の関係強化を図る「一乗グローバルネットワーク」の構想に基づいて本会青年の参加を決定しました。
今回のプログラムには、ユダヤ青年9人、パレスチナ青年9人が参加。開会式前には、初対面同士の抵抗感を和らげるため、ゲームなどでコミュニケーションを図るアイスブレイクの時間が持たれました。
開会式では、廣中次長があいさつ。続いて、『変化と抵抗――自己の態度の理解と他者の態度との出会い』をテーマにヘブライ大学で、心理学が専門のアリック・タイブ博士が講演しました。
タイブ博士は、心理学の見地から、一般的に人は変化を好まない傾向があり、考えを変えることに抵抗しがちであると指摘。現実の事象に対して、自身にとって都合の良い解釈をするとも強調しました。しかし、紛争下では、互いに変化することが必要であり、そのためには「変化を恐れず、自身の感情と、それを裏付けている思考をより深く注視することが欠かせない。また他者との出会いの中で、どちらが正しいかを議論しても意味はなく、どのように感じ、どう受け止めていたかを双方で話し合うことが大事」と述べました。
20日から22日までは、それぞれのアイデンティティー、民族の歴史や集団としての記憶を理解するためのフィールドワークを実施。参加者はエルサレムの旧市街にある「岩のドーム」(イスラーム)、「嘆きの壁」(ユダヤ教)、「聖墳墓教会」(キリスト教)の3宗教の聖地を訪問し、エルサレムの歴史を学みました。
21日にはイスラエル独立時にパレスチナ人が虐殺された村の跡地、パレスチナ難民キャンプ、イスラエルがヨルダン川占領地に建設し、パレスチナ社会に困窮をもたらしている「分離壁」などを見学。22日には、ヘルツルの丘と「ヤド・バシェム」(ホロコースト記念館)を訪れました。この期間中には、旧市街に住むパレスチナ人との会合、『パレスチナ社会から見たナクバ(「大破局」の意。1948年のイスラエル建国とパレスチナ難民発生をパレスチナ人はそう呼ぶ)』と題した講演、アウシュビッツ収容所からの生還者による講演などが行われ、参加者による討議が重ねられました。
討議では、ユダヤとパレスチナで「1948年」をどう見るかなど歴史観の違いも発表され、厳しいやりとりが展開されました。
パレスチナ青年からは、「ナクバは今も続いている。バスや大学の中で複雑な状況があるから」「祖父は土地を奪われ、悲痛な思いだった」「分離壁やチェックポイントで移動の自由もない」といった意見が出されました。ユダヤ青年の中からも、「ユダヤ人も暴力の犠牲になっている」という応えがありました。日本人からは学林本科生の岩田伊佐央さん(23)が「仏教ではすべの人に仏性があると教え、私はそのことを信じています。区別することなく、すべての人が尊いと考えることが必要では」と発言しました。
時に感情的になりながらも、各人が痛みや思いを吐露し、分かち合う中で、ダニエル・シュミルさん(26)が「私たちユダヤ人はナクバを理解しなければならないし、アラブの人にユダヤ人の存在を認めてほしい」と主張。パレスチナ人のエリ・バドランさん(25)は、課題はあるとしながらも、「平和は笑顔から始まる。私たちはどのように微笑むかを学ばなければならない」と語りました。
  最終日の午前には、映像作品『イスラエル民主主義の境界線』を鑑賞し、パレスチナとの和平を進めたイツハク・ラビン首相が暗殺されるに至ったイスラエル社会の現状と課題を学習しました。その後、『パレスチナ系イスラエル市民の目から見た"和解"』と題してアレーン・ハワリ氏が講演。ユダヤ人だけでなく、すべての人が平等な権利を有するイスラエル社会をつくっていく必要性と方策を提案しました。
このあと、イスラエル軍の武力行使やパレスチナ人による自爆攻撃で家族を失った遺族との会合を実施。民族の違いを超え、同じ悲しみを持つ者同士が連帯を組み、非暴力で和解と平和を目指す家族の会のメンバーで、ユダヤ人のラミ・エルハナンさん(57)とパレスチナ人のジャラール・クダイリさん(45)が体験を述べました。
二人は、身を切るような悲しみの中で現在の活動に出会い、平和の実現を目指すようになった心の変化を説明。エルハナンさんは「暴力の連鎖を断ち切るための唯一の道は対話です。私たちが双方の痛みに心から耳を傾けるのであれば、解決の道は必ずあらわれる」と訴え続く最後の全体討議では、全参加者が成果や感想を発表し、対話を通した相互理解の大切さを確認し合いました。

■ICCIスタッフの声

【アビゲイル・モシュ・ICCI青年プログラム責任者】
昨年夏、WCRP青年世界大会の事前会議がエルサレムで行われ、ユダヤとパレスチナの青年の対話を初めて試みました。開始前は不安でしたが、対話を通し、彼らが互いに話し合い、聞き合って、関係を築きたいと強く願っていることを知って希望を持ちました。昨年の対話は、私にとって大きな経験になっています。
その後、青年世界大会に参加し、広島と京都を訪問しました。広島では平和記念資料館を見学し、被爆者の体験を聞き、暴力について学びました。その時、かつて訪れたアウシュビッツのことを思い出しました。暴力の被害という点では、パレスチナの人々も同じような記憶を持っています。そこには、人類共通の問題があると感じました。
そうした意味で、ユダヤとパレスチナの対話に日本の人が関わってくださるのは意味あることだと感じています。特に、私たちの夢に立正佼成会の皆さまが賛同してくださることを大変うれしく思います。
今回のプログラムでは、ユダヤとパレスチナの青年がまずは知り合い、友情を深めてくれることを期待しました。違う背景を持つ人たちの体験を聞き、相手のアイデンティティーの中に何があるかを理解し合ってほしい。そして、何が今日の状況をつくっているかを考え、和解について思いを巡らしてほしいと願っていました。
全員の感想を聞いて、期待以上の成果があったと感じています。今日の参加者と共に、これからもより良い未来を一緒につくっていければと考えています。

【マリアン・カタブ(26)=ICCIスタッフ】
私たちパレスチナ人も、ユダヤ人も同じ社会で生活しています。しかし、互いに知り合うことがないのが現状です。大学では双方の学生がいて教室で顔を見合わせることがあり、街中ではユダヤ人とすれ違うこともありますが、互いに友達になることはあり得ません。ですから、プログラムの最初にゲームを取り入れた「アイスブレイク」の時間を持つのは重要でした。
今回の地元の参加者は対話のプログラムに参加したいと熱望していた人たちです。自分自身や社会、国など、今の状況を変えたいという願いを持つ青年たちです。それもあって、アイスブレイクは和やかな雰囲気になったのでしょう。
一方、ディスカッションになると、感情や怒りをあらわにする場面が見受けられました。各人が思いを表現できたのは良かったと思います。ストレスや怒り、困難といった心の奥底にあるものに触れることができたということであり、一つの成果だと感じています。
期間中、参加者から、難しい問題を議論し合う時間がもっとほしいという声を聞きました。今回のプログラムは、困難な問題を出し合い、議論して解決するというのが第一義ではありません。他人の苦しみや痛みを聞くことで、自分自身が抱えている痛みとは何かを自らに問いかけることが目的です。そのことによって、今後、自らが変わり、何ができるかを考えるきっかけになればと願っています。

■参加者の声

【ユダヤ】
アハロン・レビー(25)
「これまで、私は現実に対して一つのものの見方しかせず、異なる見方があることを知りませんでした。自分たちの民族の苦しい体験は把握していましたが、パレスチナ側の痛みは分かっていませんでした。それを聞くのはつらいことでもありました。しかし、私たちと同じ苦しみを彼らも持っていると知ったことは、より良い場所をつくっていくことに必ず役立つはずです。パレスチナ人の友達ができて良かったです。」

ゲルダ・グレザー(23)
「エルサレムに住んでいるので、街のことはすべてを知っていると思っていました。しかし、分離壁を普段とは違う反対側から見ると、そこにはまったく違う景色がありました。エルサレムの景色は美しいのですが、その美しさには別の意味があるのかもしれません。そこに差別などの問題があることを初めて知りました」

【パレスチナ】
ナタリー・ハエック(22)
「日本人が参加してくれることによって、『私は誰なのか』『ユダヤ人とはどういう人たちなのか』を冷静に考え、理解することができました。民族の歴史や集団としての記憶について話し合いましたが、対立で肉親を亡くした遺族の方から話を聞き、イスラエルとパレスチナの問題や痛み、苦しみが互いにつながっていることを教えられました。どちらかの見方を選ぶのではなく、人間としての見方が大切であると感じました」

アビール・ケターニ(19)
「ユダヤの人たちがモスリムのことを知ろうと、真摯な気持ちでイスラームの聖地に学びに来てくれたことをうれしく思いました。私自身も異なる宗教の聖地を訪れるのは生まれて初めて。他宗教の人たちに尊敬の念を持ちましたし、まざまな宗教を知ることができ、誇りに感じています」

【日本】
国富加奈子(25)
「ディスカッションで歴史とその見方について厳しい意見が交わされた時には、反目と対立の現実を感じました。しかし、休憩中にも互いに集まり、積極的に意見を交す様子からは理解したいとの思いが伝わってきたのも事実です。特に、遺族の方が民族の違いを超えて痛みを共有している姿や話を聞いたあと、参加者から拍手が鳴り止まなかったのを見たとき、平和や幸福への思いは誰もが共通なのだと実感しました」

松森謙太(23)
「期間中、キリスト教徒のパレスチナ人であるエリさんと同じ部屋で寝食を共にしました。本当に信仰深く、『すべての人を愛したい』との願いで行動する姿に多くのことを教えられました。イスラエルには大変な問題があります。けれど、対立ではなく、苦しみを分かち、平和のために取り組んでいる人がたくさんいることを日本で伝えたいと思います」

(2007.08.31記載)