『生命(いのち)――現代社会に問われているもの』をテーマに11月2日、WCRP(世界宗教者平和会議)日本委員会は、セレニティホールで平成19年次「平和大学講座」を行いました。同委員会加盟教団の代表者や賛助会員ら約200人が参集しました。同委員会平和研究所の設立30周年を記念するもので、第1部では「WCRP平和研究所設立30周年記念式典」が、第2部では、同テーマのもとパネルディスカッションが行われました。
平和研究所は、WCRPが行う宗教対話・協力と平和を目的とした諸活動に貢献するための調査研究機関として1977年に設立されました。宗教と平和に関する研究、学術的立場からの提言や学習会などを進めているほか、平和のための宗教者研究集会、平和大学講座の開催、国連その他内外の重要会議への参画など、活動は多岐にわたります。
第1部の設立30周年記念式典では、開会にあたり同委員会理事長の庭野日鑛会長があいさつを述べました。研究所の目的、活動を紹介しながら、歴代所長、所員の貢献に感謝を表明。その上で、「宗教者の使命を果すべく、この研究・提言活動が、日本委員会のみならず、世界人類の覚醒となるように、共々に前進してまいりたい」と話し、宗教、学問分野、国の違いを超えた研究活動に期待を示しました。
このあと、30年を振り返るスライド上映に続いて、同委員会名誉理事長でカトリック枢機卿の白柳誠一師が祝辞を述べました。同研究所初代所長でもある白柳師は、第1回WCRP世界大会(70年、京都)が成功した理由の一つに、「軍縮」「人権」「開発」といった各分野の専門家の協力があったことを述懐しながら、研究者が担う役割の大きさを示唆しました。
さらに、「現代社会はまさに死の文明が支配している世界です。いのちを大切にする文明、人間が人間らしく生きられる社会をつくる責任が宗教者にあります。どうか研究所の皆さま、私たち宗教者を後押しし、そして引っ張って頂きたい」と話し、今後の活動に大きな期待を表しました。第2部のパネルディスカッションには、同研究所の眞田芳憲所長(中央大学名誉教授)を進行役に、宗教、学問分野のそれぞれ異なる4人が登壇。いのちの問題をめぐって現代社会が問われている課題とその解決策を論じ合いました。
山崎龍明師(浄土真宗法善寺住職、武蔵野大学教授)は、「人間はつきつめると、自分が一番大事なのです。また、いのちの終わりに老少の順番はありません。そして他のいのちを奪うことでしか生きられない。そうしたいのちに対する深い認識が失われている」と「いのちの三種」(尊さ・はかなさ・悲しさ)を説明。その上で、「いのちを学ぶ教育、システムを確立し、ともどもに学ぶことが大事であり、いのちの三種を自らに問いかけることが必要」と、教育の重要性を強調しました。
また、黒田壽郎氏(国際大学名誉教授)は、すべてを金に換算する市場経済至上主義が、個人が個人であることを阻害し、他者への軽視につながると説明。イスラーム経済の観点から「健全な社会には、贈与活動、人に捧げる活動が必要」と話し、経済のあり方を見直す必要性を繰り返しました。
続いて、薗田稔師(秩父神社宮司、京都大学名誉教授)は、いのちを物としてとらえる考え方が環境問題、臓器移植問題などに表れていると説明。「物としてではなく事としてとらえる、つまり、〝いのち〟を〝生きること〟としてとらえると、いのちを経験的、主体的にとらえられる」として、発想の転換を求めました。
山田經三師(イエズス会司祭、上智大学名誉教授)は、行き過ぎた競争主義、臨終に立ち会う機会の減少が、生きているだけで価値があることを見えにくくしているとして、共生社会への転換を力説しました。その上で、「人々とのかかわりの中で捧げることこそが、いのちを豊かにする」と、支え合う生き方を賛嘆しました。
(2007.11.09記載)
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